scool nurse's ofifice(side M) ページ36
「養護教諭には夏休みってもんがないのかねぇ…」
セミがうるさく鳴く代わりに、夏休みの校舎はやたらシンとしている。
体育館やグラウンドでの運動部の声がささやかに聞こえるくらいだ。
ほんとうは閉めてもいいのに、ずっと開いてる保健室。
事務用のイスに座って作業をしていた知的な彼が、ふっと顔を上げた。
「…美術室だって開けてるんだろ?お互い様だよ、”松本先生”?」
「よせよ、時間外勤務なんだし呼び方くらい…」
「分かってるよ(笑)」
ブルーレイカットの眼鏡を外して、ラフに姿勢を崩した…櫻井翔は、俺と同じ時期にこの学校に赴任してきた養護教諭だ。
彼の方が2つ年上だけど、同年代ということですぐに打ち解けた。
冷静で堅実そうに見えて、距離を詰めると案外フレンドリーで抜けている。
大口で笑ったり、冗談を言い合ったりするなかで、生徒や学校のことについて、熱く語り合うこともできた。
「今年は熱中症がやたら多くてさ…、吹奏楽部の子なんかがバンバン倒れて参るよ」
今日は1人も居ないけど。と、がらんとした3つのベッドを見て肩をすくめた。
「夏休みマジで毎日開けてんの?…少しくらい休んでも誰も責めないぜ?」
「本来ならそうだけど(笑)夏の部活動生は多少頑張りすぎるからね…保健室が開いてた方が安心できるんだよ」
「そんなこと言ったって…」
「普段よりずっと暇だし、ここは空調も効いてて意外と家より快適だよ?」
「ふうん…なら良いけど」
教室のガンガンに効かせたクーラーよりも、保健室のクーラーの効かせ方はなんだか心地いい。
温度設定は同じはずなんだけど…何が違うんだろう。
「随分汗かいてるな…、美術室もエアコンあるだろ?付けないの?」
気の利く親友は、冷たい紅茶を入れてくれた。
アールグレイの艶やかな香りが鼻をくすぐる。
「クーラーの風がどうにも嫌いなヤツがいてさ……コッソリつけてもすぐバレるんだよ、とにかく五感がバケモノみたく鋭くて」
うんざり、というように眉を寄せてみたけど、ふわふわの金髪と寝癖を思い出して 少し頬が緩んだ。
「へえ…、美術部員の子?」
翔はアールグレイにこれでもかと言うほどミルクと砂糖を入れた。
見ているだけで頭痛がしてきそうな色だ。
それをおいしそうにストローで吸う。
四六時中、頭を使っているようなやつだから、このくらいの糖分を摂取しても”プラマイマイ”なのかもしれないけど。
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時