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your hand ページ30

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「先生…、あんまり油断してると その手…、食べられますよ…」


智の荷物を保健室のソファにどかっと置いて(そんな音がするほど重くなかったけど)

嬉しそうに櫻井先生の手で”遊ぶ”智を見て、そう忠告した。


「えっ?」


秀麗な顔に似合わない、大きな目をぱちくりとさせてキョトンとした先生が

自分の左手に視線をやる頃には

もう智は、先生の広い 手のひらに 唇をつけたところだった。


「おっ、おお大野くん!?」


その表情は、いつも穏やかで聡そうな先生のそれとはかけ離れていて

コメディチックだったので俺も少し吹き出してしまった。


「智、だめだって」


整った印象の親指を口に含もうとしたところで、その手を引きはがすことに成功した。

智はおもちゃを取り上げられた子どものように、あっ、と残念そうに眉を八の字にした。
頬がピンクに上気して目が潤んでいる。熱があるのか…。


先生は、いわゆるキスをされた左手を見つめて放心している。

普段とのギャップが少し面白かったのと、智のこの行動には慣れているのとで、頬が緩んでしまった。


「すみません…(笑)変な気はないんですよ、気に入ったものを口に入れちゃうだけで」


ニコリとできるだけ申し訳なさそうに笑ってみせると、櫻井先生は多少安心した顔をした。


「…そうなんだ…、ふふ、俺の手がそんなによかったんだね?」


さすがは養護教諭の先生だ。動揺を湛えていた瞳は即座に色を変えた。

すぐに元の穏やかな笑顔に戻り、捕食されそうに(?)なった手で智の髪を優しくかき上げる。

それを智は安心しきったように受け入れていた。もう口に入れることはしなかった。




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「---…それで、ここまで山本先生が運んできたんだよ」


櫻井先生が、智が倒れて運ばれてきた経緯を説明してくれた。

俺はその内容を聞いても、もうあまり驚かない。

気分が悪くて倒れそうになりながら 窓の桟に掴まっていたら、たとえ自分自身の万事には鈍感な智でも、心細くなったりするんだろうか…、とぼんやり考えた。


「…バカでも風邪引くのな?」


熱のせいでくたりと横になっている智に憎まれ口を叩いてみる。

むくれた顔で「病人には優しくすんだぞ」と言われた。それで先生も笑った。



1人で帰ると言い張る智を、俺と先生で(ほとんど無理矢理)説得して、お母さんに迎えに来てもらうことになった。


そして、俺は日が落ちないうちに、先生と智を残して保健室を出たのだった。




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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時

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