freedom ページ2
四六時中ピアノに縛り付けられているのと、四六時中まっしろな部屋で手足を拘束されているのは、どちらが地獄なんだろうか。
前者は俺のことで、後者が彼のことである。
『もう弾かないの?』
生まれてからピアノしか弾いてこなかった俺にとっての、ピアノ以外の記憶は彼で埋め尽くされている。
俺が高校生だった3年間
俺は、彼と一緒に太陽を浴び、退屈な授業を受け、時には抜け出し、風に吹かれ、雨に打たれ、同じ傘に入り、笑い、泣き、怒り、喜び、悲しんだ。
ピアノを離れるとほとんど彼のそばに、俺はいた。
でもいつも思い出すのは横顔で、思えば彼はあまりこちらを見てくれなかった気がする。
俺たちが高校生だった3年間
彼はいつも俺の隣で 空に向かって手を伸ばしては、過剰なほどに自由を求め、獲得していった。
広いもの(…海や空や山や、高台からの街の景色などのことだ。例外もある)を目の前にしたら 高揚感にうかれるまま大声で歌い、
車に轢かれて死んだカエルを見つけてしくしくと泣き、コンクールで優秀賞を取った俺に飛びついて喜んだ。
大好きな人の手をとり抱きしめ、大嫌いな人の手を容赦なく払った。
彼の行動はいつも突飛で、ときには周りを困らせたけど
いや、いつもかなり周りを困らせていたけど…
俺はその、どこまでも衝動的な彼の姿に 惹かれて惹かれてしかたがなかった。
楽しかった
そう言えば嘘になる。
俺の3年間の高校生活は、彼のせいでめちゃくちゃだった。
彼は俺のことを、(喧嘩以外で)突き放したり、逆に縛り付けたりしなかったけど、俺はまるで縛り付けられるように彼のそばにいた。
いちど出会ってしまったら、二度と離れられない呪いのようなものがあるとしたら、きっとそれにかかっていたんだと思う。
いや、ちがうな…
きっと…彼の持っている自由さ、美しさ、過激さ、今にも消えてしまいそうな不安定な儚さ、そういったものが、俺を惹きつけ縛り付ける呪いだったのだ。
…これは、気の遠くなるほど長い物語だ。
【四六時中ピアノに縛り付けられているのと、四六時中まっしろな部屋で手足を拘束されているのは、どちらが地獄なんだろうか。】
これは、
くるおしいほど 彼が求め、愛した自由が
すべて彼の手から零れ落ちてしまう前の物語。
俺たちはまだ制服を脱げなくて
彼はまだ、本気で自由の羽を探していた…
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時