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call you(side S) ページ6

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〈ハイ、もしもし…〉

「あ、こんにちは。城北第一高校 養護教諭の櫻井と申します…、相葉さんのお宅でよろしいでしょうか?」

〈……ハイ〉

「もしかして相葉くん?」


日向先生は、毎日玄関に立っても、顔を出してくれないと言った。

確かに、登校したくない時期に、教師に家を訪ねられるのは嫌かもしれない。


どうにかして声だけでも聞かせてもらいたいので、ダメもとで電話をかけてみたら、受話器を取ったのが相葉くん本人だった。

名乗ったらすぐに切られるのでは、と思っていたが、相葉くんは切らずにそのまま繋げていてくれた。


〈……そう、です…〉


声にいつものような覇気がない。
学校を長く休んでいることを、気にしているのだろうか。小さな声で「すみません」と言った。

「ううん。声が聞けて嬉しいよ。…元気?…じゃ、なさそうだね?(笑)」

できるだけ朗らかに言えば、電話の向こうで、ふふ、と力なくだけど笑ってくれた。


「最近は雨ばっかでやだね〜…外には出てる?」

〈……買い物とかには…〉

「そっか…お手伝い?偉いなあ」

〈…、…〉

「ご飯ちゃんと食べてる?」

〈…ハイ〉

「ちゃんと寝れてる?」

〈…うん…〉

「なら良かった、」


ある程度健康的な生活を送っているようで安心する。

あんまり長くなるとうっとおしがられるかと思って、相葉くんの負担にならないよう、早めに切り上げようとした。

すると電話口から、くすりと温かな笑い声が零れる。


〈……母さんみたい、先生〉

「そういう性分なんだよ(笑)」

〈保健室の先生だから?〉

「そうかもね〜」

〈ふふ…(笑)〉


素直な相葉くんは、ゆるりゆるりと心を溶かしてくれた。

かなり疲れているみたいだけど、こちらを拒否しているわけではなさそうだ。

どうして2週間も学校に来ないのか、聞くのはそんなに簡単じゃないので、今日はやめておく。


そのあとは、最近食べたものとか、見たテレビの話をした。
他愛のない会話だ。

たまに、以前のようにアハハ、と笑うときがあって、救われたような気分になった。


「……明日も、かけていい?電話」

〈…うん、あの……〉

「ん?」

〈日向先生に、毎日無視してごめんなさいって、〉

「ああ、…大丈夫だよ。それは」

〈…すいません〉

「気にしないで。なんかあったら言いなよ?俺でも日向先生でも、誰でもいいから」

〈ありがと…〉


受話器を置いた後、窓の外を見たら、

当たり前のように雨が降っていた。



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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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