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「…ちょっとソレ恥ずかしいんですけど」
頭に乗った手をどけながら言ったら、「可愛いものは仕方がない」と言う。
先生は意外と、真面目なだけじゃなくて、ときどき「マジ?」とか「やば」とか言う。
いったいいくつなんだろう。俺たちと、そんなに離れてはいなさそうだ。
「どこに行こうとしてたの?あっちは資料室しかないけど」
「あー…、智探してて」
「大野くんを?」
ほんの少し、先生の顔が曇ったのを、見逃さなかった。
「なに?それ何の顔?」
指摘したら、「鋭すぎ、かわいくないね」と苦く笑われる。さっき可愛いって言ったじゃないか。
「君が落ちて、ひどく取り乱しただろ?あの日から、ちょっと様子がおかしいんだ」
「取り乱した?智が?」
「あぁそっか…、知らないよな…、ごめんごめん」
俺は転落してから気を失っていたので、そのときの中庭の状況は知らない。
智と、その横に居た櫻井先生は、間近で俺が落ちてくるところが見えたのだろうか。
たしかになかなか、ショッキングな光景かもしれない。
でも…
「智がそんな…なってるとこ、見たことないんですけど…なりそうもないし…」
「あの日は、なんだか消耗してるように寝てたから…疲れに重なったのかも、と思うんだけど」
「へえ…」
頼りなく上下する、細い肩を思い出す。それと、突き刺さる雨粒。
近くに行けば、無垢な寝顔を見られると思っていたのに
疲れた顔で、眠っていたのか。
「それで、君が入院してから…、問題行動が増えてね…」
「え…」
「人をあからさまに避けるんだよ。授業にも出ないし…屋上でよく見かけるから、呼ぶんだけど、俺に気付いたらすぐ逃げるんだ」
櫻井先生の言葉が信じられなかった。
智が先生を避けるわけがないのだ。いつも、目の端に見つけたら、「あ、」と嬉しそうに口角を上げるのだから。
「松本先生にも懐いてたのに、一切美術室に来なくなったって…、この前はガラスを割って、久しぶりに山本先生が怒鳴ってた」
ガラスを割る?
智は割れたガラスは好きみたいだけど、自分からそれを作り出すことはしない。
学校のものを壊してはいけないということくらい、分かっている。
そういうことは、かなりきちんと、守っている。
「俺も含めて、情けないけど…何もできなくて。二宮くんなら…と思うんだけど」
「え、…いや…」
にわかに信じられないまま、櫻井先生に、見えないバトンを渡された。
「たぶん屋上に居ると思う」
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時