absence ページ46
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智の居ない夏休みは、おそろしく退屈で、速かった。
リハビリを死ぬ気でやって、予定より早く退院できたら、俺を迎えたのは
大好きで大嫌いな、虫歯の怪物だった。
待ちくたびれた、というふうに、ピアノは部屋でずっしりとしていた。
ピアノがある。というよりも、存在している。と言った方が適切であるような、そんな感じ。
緊張しながら課題曲を弾いたら、待ってました!というふうに指が動いて、それはもう…この上なく滑らかに動いてくれて、安心した。
それで、8月の半ばにあったコンクールで、大賞をもらった。
相葉くんと咲玖が、会場まで足を運んでくれ、スーツがかっこよかっただの、髪型がイケてただの、およそピアノと演奏に関係のないことを、ぎゃあぎゃあとまくしたてた。
最後に、優しさと照れの混じった「おめでとう」をもらい、それが、賞なんかよりも最高に嬉しかった。
智の居ない夏休みは、おそろしく退屈で、ものすごく速かったので
すぐに、9月が来た。
果てしのないほど、長いと感じていた梅雨は、もうとっくに終わっていたはずなのに、
学校に行くと、からりと晴れた空に、青々とした葉を伸ばすケヤキがいて
なぜか今更、「梅雨が終わった」と思った。
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教室に、智は居なかった。
新学期なので、席替えがあって、智の空の机を学級委員の男子が動かした。
智は窓際の、いちばん後ろの席になった。今にも忘れ去られそうな席だ。眺めがいいので、喜ぶかもしれない。
俺は、授業中に 智が遊ぶ姿を見られないことに、いくらか落胆した。
音楽室にも、美術室にも、保健室にも居なかった。
学校に来ていないんだろうか。
いやでも、智はお母さんに迷惑をかけたがらないので、形だけでも登校はしてくるはずだ。
体調不良か…と思ったけど、彼は体調不良を自分で分からないので、関係ない。
登校中に道草を食って、遅刻することはあるけど、昼休みまでにはいつも居るのに。
どこに居るんだろう…と廊下を歩いていたら、櫻井先生に会った。
「お、元気か〜、はやく退院できたんだって?」
愛おしそうに、眉を八の字にしている。
俺はもう、櫻井先生の前で大泣きしているので、立てるプライドも1ミリも残っておらず、だから嬉しいときは素直に嬉しい顔をすることにしている。
「コンクールもうまくいった」
そう言ったら、大きな手でがし、と頭を撫でてくれた。
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時