myFriend (side A) ページ45
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夏休みは思い出したようにやってきて、8月になった。
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オレは、休んでいた分を取り戻すために、必死こいて部活に取り組んだ。
夏前の、大事な時期に休んでしまっていたので、ずいぶんみんなに迷惑をかけたのに、
事情を何も話さなくても、顧問も部員も、復帰したオレを優しく受け入れてくれた。
母さんは、不安定ながらも少しずつ元気を取り戻した。
千夜子が、大ちゃんの抜き取られたアルバムを母さんとめくり、大ちゃんの抜き取られた思い出話を、穏やかな顔で聞いていた。
胸が痛むこともあったけど、これはもう、乗り越えるべきこととして、自分の中で折り合いをつけることにした。
千夜子も、喉元に巣食う、疑問や葛藤を飲み込んで、母さんの回復を第一に考えて、接してくれているから。
大人になりたいわけではなかったけど、こうやって大人になっていくのかもしれないと、ぼんやり思った。
ただ、誰かを支えられるくらいには、強くなりたかった。
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「明日退院でしょ?はやいね〜、意外と」
「呑気なこと言わないでよ、永遠より長かったっつの」
カズのお見舞いには、たびたび行った。
最初こそ、傷だらけで痛々しかったけど、回復力が若者のソレで、どんどん元気になっていくから嬉しかった。
カズは、ピアノのコンクールまで、1週間と3日を残して、退院する。
「コンクール見に行っていい?」
「来てくれんの?」
「もちろん、てか見たいよ、カズが弾いてるとこ」
「えー嬉しい」
「なにそれカワイイ」
「なんだそれ(笑)」
「咲玖ちゃんも誘おっと」
「あいつはヤだよ、どうせまた『おんなじとこミスりゆう〜』とか言ってくる」
「アハハ、似てる(笑)」
カズの病室には、いろいろな友達が訪れるわけではないけど、それでも
オレが覗くときはいつも、誰かが居た。
そんなときのカズは、誰もに平等に嬉しそうで、
お母さんがいれば高校生らしい無骨な態度を見せ、
咲玖ちゃんが居れば、あけすけに、くすくすと楽しそうに話し、
オレのときはどうかと言うと、いつもと変わらず、くだらない冗談を言って笑わせたり笑ったりしていた。
そしていつも、去り際に
寂しそうな笑顔で
「智はどうしてる」と聞いてくるのだった。
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時