so call me (side S) ページ42
〈かわいそうでさ…、起きたときに…撫でてやろうとしたんだよ、ホラ、お前がいつもやってるやつ、気持ちよさそうにするだろ?〉
「ん?あぁ……」
いつもやってる、と言われるとなんだか恥ずかしい気もするけど、きっと頬か、前髪を撫でる動作のことを言っているのだろう。
嬉しそうに目を細める大野くんの顔が、ぽんとかわいく思い浮かんだ。
〈…俺だからか…知んないけど…、もうずっと、怯えてさ…指が触れるのすら、許してくれなかった〉
「怯える…」
〈力も入んないのに、振り払ってさ…それでそのまま吐いたら、また気絶するみたいに、堕ちる〉
前に大野くんが、悪夢にうなされていたことがあった。
そのときの、何かにひたすら恐怖している様子を思い出したけど
俺の手までは…、助けたくて伸ばした 教師の手までは、怖がったり、ましてや拒絶したりなど、しなかったはずだ。
「おかしいな……、今はどうしてる?」
〈静かに寝てる。もう夢見る体力も ないんだろ……、もうすぐお母さんが迎えに来るよ〉
「午前中には来られなかったの?」
〈外せない仕事らしくて…、父親と姉は単身赴任中らしいから〉
「なるほど…、ずっと保健室に居たのか」
〈そう。もうずっと…、…死んでないか、不安になるよ……弱りすぎてる〉
電話の向こう。ぐす…と布団が擦れる音がする。
掛け布団の上から、手を添えたのだろうか。
大野くんはなぜ、潤の手を振り払ったのだろう。怯えたのだろう。
人が高所から転落するというのは、大人の俺にとってもショッキングな出来事だったから
万事に敏感な彼のこと、気が動転しすぎて、錯乱に近い状態にいるのかもしれない。
「二宮くんのことが、よっぽどショックだったのかも」
思い当たることがそれしかないので、素直に提案したら、潤はまた、ため息をついた。
〈どうだろうな……〉
含みのある言い方だ。
〈…なあ、〉
「ん?」
〈……、〉
潤は大事なことを言うときや、肝心なことを言うとき
それらの重大さに負けて、言葉を失うことが、多々ある。
大切なことを言う、と思うと、かんたんには言えなくなるらしい。
それは、彼が言葉を諦めて、絵筆をとった所以でもある。
要所で言葉に詰まるので、他の先生からは表現力やプレゼン力に欠けるなどと誤解をされることも多い。
だけど俺は、そのとき彼の中に渦巻いている"気づき"が、
誰よりも鋭いことを知っている。
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時