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Dew(side S) ページ40

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「…んで…なんで智が……、あんなふうに言われなきゃいけないの…?」


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必要以上に大人びていた彼が零した、純粋な言葉が、刺さった。


この子は分かっている。


今回の騒動が、相手を責めるだけでは解決しないことを。平和的和解のためには、自分にもあった多少の非を、認めなければならないことを。


自分を突き落とした、濱田くんの気持ちを。加害者の、取り返しのつかない罪悪感をも、汲み取っている。


細かく気を配るべき その他の事情や、我慢して飲み込むべき言葉について、大人の俺と同等か、それ以上に理解している。


だけど

すべてを理解した上で


今までずっと…ずっと閉じ込めていた、誰にも見せなかった最大級の苦しみを、小さな声で吐露した。



『なんで智が、』



それが、自分のことでなく人のことであるのが、彼らしくて、切なかった。

自分を大切にするのが、あきれるほど下手だ。



二宮くんは、これまでのように涙を隠すことをしなかった。

悲しみに圧し潰されたように、苦しそうに 秀麗な口元を歪め、ぽろぽろと子どものように泣いた。


濡れた瞳は、憤りと痛みと悔しさでごちゃ混ぜになっていて…

それでも懸命に、

まっすぐに俺の目を見る。訴えるみたいに。



「もう言わせないから」と言うしかなかった。その薄っぺらい信憑性をごまかすように、

優しく手を握ったら、強くぎゅう…と握り返されて


耐え切れないというふうに嗚咽を漏らした 二宮くんは、どうしようもない涙をまた零した。


「なん で…だよ…」


大切にしていたおもちゃを壊された子どもでも、こんなに痛切な泣き方はしないだろう。

それは、およそ他人を想って流す涙のなかで一番、切実で真剣だった。


全身を打ち付けた痛みの中で、熱に浮かされながら

それでも人を想って涙を流す、心の奥深さに圧倒される。



肩を震わせて、ときどき弱く しゃくりあげながら

悲しみのままに泣くのが、長い時間続いた。



俺は、二宮くんが、涙の果てに 疲れて眠るまで

小さなその手を 包むように握り、熱い額に、ときどきもう一方の手を当てて冷やした。



まつ毛に残る 透明な雫が、ヒリヒリと痛みを伴うほど綺麗だ。


今まで、俺の前では決して見せてくれなかった、

幼い子どものような、あけすけな寝顔だけが…


緊張と暗い混沌でできたような今日という日のなかで


唯一の救いだった。



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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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