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Calm(side S) ページ33

彼と言葉をつなぐことには、二宮くんがいちばん長けていると思っていた。

聡い頭をくるりと回転させて、兄のように、導くように、無口な大野くんを饒舌にさせる。

「何言ってんのよ」と呆れながら、それでも幸せそうに微笑んで、そっと見守る。

そういう印象があった。


「そうしてたら寒いんじゃない?」

「んーん……眠い…」

「そっかぁ…、でも手が震えてるね?見て、ホラ」

「…んとだ…」

「あっためてあげよう」

「んふふ…」

「俺の手あったかいでしょ?」

「ん」


二宮くんのことを、どうとか言うわけでは、決してない。

今でも尊敬に値するレベルである。間違いなく。


だけど、彼を比較対象に出したくなるほど、相葉くんは


二宮くんとは違ったやりかたで、大野くんの心を開いている感じがした。


「今日はケヤキの気分だったの?」

「…べつに…気付いたら…」

「気付いたら来てたのか」

「うん」

「俺も濡れてきちゃった…寒いや」

「…うん」


意識的にやっているのか、無意識なのかは分からない。

相葉くんの紡ぎ出す言葉は、しぐさは、まるで大野くんのそれと、おなじ温度だった。


見守るというより、寄り添うと言ったほうが、合っている。


「大ちゃんびしゃんこだね(笑)」

「ふふ、さむい」

「寒いでしょ?中入ろうよ」

「ん……、先入ってて…」

「ん?なんで?一緒にいこ?」


木に凭れたままの大野くんの瞳が、うようよと気まずそうに泳いだ。

柔和だった表情に、少し影が差す。


「……立てないの?」


相葉くんがそう言って、気付いた。

そういえば、目を覚ましてから、大野くんが動かしたのは瞳だけで

それ以外は眠っているときと同様、くたりと木に張り付いている。


「大丈夫…? 手、出して…」


救うように差し出された手を、不安そうな顔で見つめる。

その手を取ることを、迷っているようだった。


なにをそんなに躊躇しなければならないのだろう。

相葉くんも、「どした?」と首を傾けている。




そのときだった。




ガッシャーン、という、ひときわ派手な破壊音が


全身の筋肉が硬直するような、嫌な緊張感をもって響く。



その音の方に顔を向けたら


2階の…たぶんあそこは2年3組の教室だ……その教室の窓が、無残に割れて



そこから、生徒が一人


おもちゃみたいに、コロリと落下した。



そして、妙に現実感と粘り気のある


ドスン


という音を響かせて


中庭のはずれに、身を打ち付けた。

pain(side A)→←last person(side S)



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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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