sound of qiet(side S) ページ29
授業中で、しんとした学校の、何かが息を潜めているような静寂が好きだ。
何百人もの生徒が居るのに、そのほとんどが静かに座っている。当たり前で、よく考えれば異常な、いやだけど当たり前な…というこの時間。
保健室で仮病を使って寝る生徒が、妙な背徳感を覚えるのは、この静寂を体感するからに他ならない、と思う。
だけど今日は、何かがおかしかった。
「ん…?」
雨が降っているので、窓を閉めていたのだが、
なのに、いつものとろとろとした静けさとは違う、どよ…といううねりのような音が、中庭側から聞こえてきたのだ。
隠れていた小さな虫の集団が、わらわらと出て来た…みたいな、気持ちの悪い、どよめき。
「なんだ……?」
異変を感じて、中庭側の窓を開けた。
そこに見た光景に、俺は息を飲んだ。
中庭に面しているほとんどすべての教室で、ほとんどすべての生徒が、窓に顔を張り付けて、ある一点を凝視している。
その表情には、程度の差はあれど、邪悪な方の好奇心が滲んでいた。
ぬらりと鈍い、昆虫の眼のような光を、誰もがその瞳に内包していた。
『見世物』を見るときの顔だ、と思う。
その顔が、各教室におよそ40個、瞳に換算すると80個。
中庭に面している教室は、3学年合わせて12クラス。
体育館や音楽室に行っている生徒を差し引いても、400人近い人間が、同じ場所を、同じような目で見つめている。
800近い数の瞳が、そこを見ている。
空気中の水蒸気が凝固して、窓ガラスが曇るのを、無邪気で凶暴な高校生の手が、ずさんに擦る。
そしたらまた、ぬらりとした目が、現れる。
それが、どの教室でも行われていた。
なんだ…
何が、そうさせている?
勢いの強い雨が、少しの風に吹かれて顔にかかる。
白衣が少し、濡れた。
中庭を取り巻く異常な雰囲気に、ひどい焦りと戦慄を覚えて、それを振り切るように、生徒たちの視線をすばやく追った。
真ん中に植わっているケヤキが、雨に濡れて重苦しくそこにある。
生徒たちが、食い入るように見つめていたのは
その根元に、ぐったりと身を預ける、大野くんの姿だった。
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時