That... ページ27
中庭に面した教室のぜんぶが、おんなじような状態になっていた。
ほとんどの人が、水族館でガラス張りのペンギンの檻を見るような、そんな感覚で中庭を見ていた。
「…智……、」
智は、大きなケヤキの木の根っこに、きれいに収まっていた。
ゆるりとカーブした根っこと幹のつながりに、甘えるように頬を寄せ、ごつごつとした木肌に寄り添うようにして眠っていた。
智が、木の根元に身体を滑り込ませたというよりは、智が寝ているところに、木の根っこがゆりかごのように張った、と言ったほうが説得力があった。
木に抱かれている。そう思った。
「寝てんの？」「え、まじ」
「怖い怖い」「うそやん」
「ずぶ濡れじゃん」
2階からでは、智の顔はよく見えない。
細い肩が、深い呼吸をするたびに、ゆるやかに上がったり下りたりする。
ザアアアア…と、雨が勢いを増した。
智の身体に刺す雨粒は、限りなく鋭いのに
決して、優しい勢いではないのに…
なのに、智は、まるで安心しきったような呼吸のリズムで眠っていた。
尖った雨と、穏やかな呼吸。
その光景を"異様"だと思わざるを得なかったのは、
教室に居るほぼ全員が、釘付けにならなければならなかったのは、
ひとえに、雨の勢いと智の雰囲気の、おかしなギャップ(あるいはアンバランスさ)の所為だ。
「何してんの、アレ」「だから寝てんじゃね」
「いや無理だろ」「でもあいつヤバいって」
「寒そう」「まじ？」
2階から、智の表情がよく見えない。
なんで見えないんだ、と思った。
太い太いケヤキに包まれていたら、智の身体がいつもよりずっと、細く小さく見える。
穏やかに肩が上下しているけど、その細さは、いつか その動きが止まってしまうんじゃないか…と思わせるほど、儚く頼りなかった。
せめて顔が見たい。
遊び疲れた子どものように眠っているのを確認できたら、安心できるのに。
今すぐにでも、教室を飛び出して中庭に降りたかったけど、一瞬でも目を離したら智は消えてしまうのではないかと、バカみたいなことを本気で思って、動けなかった。
中庭に面した教室の窓、ぜんぶに、生徒が張り付いている。
密集した熱気で曇る窓ガラスを、ハンカチや手のひらでこすって、皆が中庭を見ていた。
「きちくやん」「誰か言ってやれよ」
「起こしたれ」「やだよ」「せんせー」
言葉が、雨よりも鋭く、心に刺さった。
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます！ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (
レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです！知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます！ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…！ (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きんにく
| 作成日時：2020年5月17日 12時
