conversation(side O) ページ24
根っこが、びっくりするほど大きくて太かった。
ボコン、と地面から飛び出た根っこは、小さいころ、父ちゃんがかいていた、あぐらの形に似ていた。
日曜日、父ちゃんのあぐらの中に ぽすんと収まって、うとうとするのが最高だった。
それは、ゆりかごとも違う、母ちゃんの腕の中とも違う、力強いあたたかさ。
ぼんやりして、多くのことは思い出せなかったけど、目の前のケヤキが、優しくあぐらを差し出してくれている気がして…
父ちゃんのよりも3倍くらい大きなそこに、ころんと身を 預けさせてもらった。
「……つめた…」
ぼろぼろと、葉っぱを伝って太くなった雨粒が、身体に顔に落ちてくる。
背中を預けた太い幹は、しっとりと濡れていた。頬をつけるとゴツゴツしていて、木の無骨なにおいがする。
雨に濡れて、すんと重くなった緑の香りを、胸いっぱいに吸い込んだ。
そしたら、肺の中に残っていた、暗い夜の空気が やっと吐き出せて…
頭を刺すような眠気じゃなく、甘くて柔らかな眠気に襲われた。
「…ねむ……」
【抱かれて眠るなら…どうぞ…】
「……つかれ た…」
【疲れているなら、なおさらですね】
「え…?」
【ん?】
閉じかけた目を開けて、上を向いた。深い深い、緑の葉から、ぼたぼたと雫が落ちてくる。
【目に入りますよ、雨は目に入ったら痛いですから】
「……はなし…、話せ るの…?」
水分を含んだ表面に、おそるおそる指を這わせる。カサカサした木の幹は、いつもなら、しく、とトゲが刺さるのに
雨のおかげで、たっぷりと水分を飲み込み、ぬるぬると優しい手触りだった。
【話せるのは、あなたでしょう…】
ざわざわと、葉っぱを揺らしてケヤキが鳴った。包まれているような安心が、雨粒とおんなじように降ってくる。
緑のにおいが好き。
こんなに安心できる香りなのに、「むっ」とか「むわっと」とか、そういう表現をされているのが、哀れで、抱きしめたくなる。
「……こうして寝てもいい…?」
根っこと幹が、ゆりかごみたいにカーブしているところに、ぴたりと身体を沿わせた。
眠ってしまっても、夢の中でその声が聞こえるように、耳もぴったりと、濡れた幹につけた。
【もちろん…今更ですが、濡れたら風邪をひきますよ、あなたは】
「…ふふ…、もの知りだね…」
【ほとんどすべてを知っています】
ケヤキは、ざわざわと話した。
「……じゃあ…さ…、」
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時