tired(side O) ページ23
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「あ、智さとし。…ちょっと上向いて」
朝日は、雲に隠れてひっそりと昇ったらしい。あいまいに、朝が来た。
朝が来る前に、ぽつぽつと雨が落ちてきて、1時間くらいおしとやかに降ったあと、今度は惜しみなくザアザアと流れ始めた。
その音を、ベッドで目を開けたまま聞いた。
雨のおかげで、あの声は小さくなっていったけど、念のため、丸まった姿勢も、そのままにしておいた。
「あ〜、もうキレイになくなってるね」
首に付いていた青黒い痣は、紫になって、オレンジになって、黄色くなって、そして消えていった。
母ちゃんはそれを確認して、手に持っていたファンデーションをポッケにしまおうとしたけど、また出して、とんとんと指に取った。
「こっちはひどくなってる」
目の下を、冷たい指がするすると触る。気持ちよくて、眠たくなって、一瞬で落ちそうになる。
「…眠いの?」
「…ん……」
ゆらりゆらりと揺れる視界。
頭がぼうっとして、ファンデーションのにおいを嗅いでも、ファンデーションのにおいだ、としか思えない。
疲れた。まだ、朝なのに。
「しんどい?」
「うん……」
「学校休む?」
「…いく………」
声を出すのもめんどくさくて、玄関に置いてある靴に足を突っ込んだ。
目をいくら擦っても、ぱっちりと開いてくれない。
「あー、擦ったら取れちゃうじゃない…、ね、智、今日は休んでもいいよ?」
「…うん……いく…」
「あらら…」
なんにも考えられなかった。
外に出たら、冷たい温度で雨が降っていて、眠気ざましに、濡れて行くことにした。
水たまりにお邪魔したり、目薬みたいに雨の粒を目に入れて、歩いた。
今日の雨は、ここ最近でとくに素晴らしかったんだけど、疲れているし、眠たいのであんまり言葉にしたくない。
そうやってゆっくり歩いていたら、学校に入る前に、キーンコーンカーンコーン、という始業チャイムが鳴って
それで、なんか、もういいや…という気持ちになって、教室に行くのをやめた。
【抱かれて眠るなら…眠るなら…どうぞ…】
なんにも考えずに、ぼうっと歩いて、辿り着いたのは
中庭にある、大きな大きなケヤキの前。
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時