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hurusato ページ21

「……智くんのこと、おかしいと思ったことないが?」


決定的なその言葉を、俺は息を止めたまま聞いた。正確に言うと、息をすることさえ忘れて聞いた。

咲玖は、悲しそうとも、優しそうともとれる表情をしていた。
目を離してはいけない気がして、俺は金縛りにあったように、身じろぎひとつ出来なかった。


「智くん、て言っただけで」

「…、」

「そんな顔しゆうね、」


困ったように咲玖が笑う。

出来損ないの弟を持った、姉のような笑顔だった。

緊張していた空気が、そこでふっと緩んだ。


閉め切った部屋の中で舞うホコリが、夕日の光を受けてチリチリと姿を見せていた。


「変な空気にしてしまった」と、いつも通りの口調で言って、短い髪に絡んだ俺の手を、やんわりと引き離した。


もう俺は、咲玖のことを平凡だなんて思えないだろう。


「…これはうちの話。智くんにはぜんぜん関係ないよ。まあ、あるかもしれんけど、それは分からん」


咲玖は、こっちに来る前、智のように雨粒を飲んだり、花びらを舐めたりしたんだろうか。

妖精のようなものが見えていたのなら、それはどんな形をしていたのだろうか。



「やけん この話、終わり!…相葉くんとかに言わんといてよ?(笑)」



それがすべて、見えなくなったとき…景色の輝きがなくなったとき

怖くなかったのだろうか。寂しく、なかったのだろうか。


「咲玖、」

「ん?」

「…広い、ところから来た?」


----『…広いところから来た?』

----『うん。でも もう要らんがって。広いの』


咲玖は苦笑いをした。髪を耳にかけると、ずいぶん幼く見えた。


「うん…、四国の、島で生まれた。海も空も、ぜんぶ広かった」

「そ…」


咲玖が捨てたもの。

咲玖が、要らなくなったもの。


「綺麗なんだろうね、四国の海は」


だけどそれは、咲玖が、とびきり愛して、死ぬほど大切にしたかったものなんじゃないか。

智がいま、全力でそうするように。

咲玖も、身を焦がして、愛したのではないか。


「ふふ…、うん」


曖昧な笑みが、返ってきただけだった。

爽やかな目のふちに、少しだけ涙を溜めて、でもそれが零れることはなかった。




「ね、連弾しよや」

「連弾〜?なに弾くの」

「なんかジャズ」

「…渋いな」


そのあと、イスに半分ずつ腰かけた俺たちは

あまりにも違う、お互いの音色を笑いながら

誰に聴かせるでもないから、でたらめに、やんちゃに

虫歯のような鍵盤で、夜がくるまで、遊んでいた。

black(side O)→←sakura



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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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