sakura ページ20
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「ピアノ弾きよったら、鍵盤の上をぽんぽん跳ねゆうの。で、楽しくなって外に遊びに行く」
真っ赤なマニキュアが似合わないと思ったのは、咲玖が それをちっとも、愛していないからだった。
でも咲玖はそれを丁寧に塗っている。きれいに、隙間なく。
「外に出たら、もっとたくさんおる。うちはそれとお喋りせないかん。追いかけっこもした。キレイやったから、ずっとそれを見てた。…それが自分にしか見えんって気づいたのが、中学の終わり」
「お父さんが死んだ」
咲玖の 言葉と言葉の間に、俺が感情を挟む余地はなかった。
強い西日が、部屋の窓から差してきて、俺はそれを少しも綺麗だと思わなかった。
マニキュアの赤は、どんなにオレンジの光が差しても、赤だった。
「うちが妖精と…てゆうか、それが妖精かどうかも分からん。なんや、ものすごい好きで、キレイなやつがおって、それと追いかけっこしよるときに、車に轢かれそうになって」
「お父さんが、うちを助けて、代わりに轢かれた」
「お父さんの腕が変な形に曲がってて、血がいっぱい出てるのに、うち、それに気付かんと、追いかけっこの続き、して……すぐに助けを呼んどったら、助かっとったんやって。でもうちは、死にかけのお父さんを、放ってな、キレイなものを、追っかけ……、」
とめどなく溢れていた言葉が、中途半端に止まったのは
俺の手が、咲玖の黒い髪に触れたからだ。
俺は、咲玖の口を止めたくて、必死でその髪を触った。
「まだ話しゆう、」
「いいよ、もう」
右耳に髪をかけたら、絹のように強いそれは、さらりと幾つか落ちてきた。
小さな耳からこぼれる髪の束は、涙の代わりみたいに、さら、さら、と落ちる。
俺はそれを、何度もかけ直す。
「…もう、見えんくてもいい、要らんって思ったら、すぐに消えた」
「もういいって、」
「海とか空とか、もっと綺麗に見えとったのに、ただの海と空になった」
「咲玖…」
----『…広いところから来た？』
----『うん。でも もう要らんがって。広いの』
咲玖が捨てたもの。
咲玖が、普通すぎる理由。
「そうやってやっと、普通になれた、みんなと同じになれた、うちは」
そのときの咲玖は、かわいそうで、でも強くて、少し怖かった。
俺は心をかき乱されて、夕日の光を綺麗だとも思えず、ただ首を横に振った。
だって、咲玖が捨てた咲玖の姿は、まるで
まるで…
「……智くんのこと、おかしいと思ったことないが？」
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます！ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (
レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです！知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます！ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…！ (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きんにく
| 作成日時：2020年5月17日 12時
