Your way(side M) ページ16
「さとしく…大野くんが、昼休みにソコで寝るんだよ、最近」
「へー…、ふふ、"智くん"が?(笑)」
「なっ、いいだろ、名前のほうが反応してくれるんだよ」
「かわいいねえ」
「からかうなよ」
「大野のことだよバーカ」
軽口を叩きながら、頭では別のことを考えていた。
あの硬くて座り心地が悪そうなソファで、くるんと丸まって眠る大野を想像したのと、
彼が最近、絵を描いている途中で眠りこけてしまうのを思い出していた。
「ベッドで寝かせてやれば?」
「ベッドは病人が使うモノ。寝に来る場所じゃないよ」
「お堅いねえ」
「言われ慣れてる」
「褒めてるんだよ」
「ウソつけよ」
「まあまあ(笑)怒んなって」
それに…青黒い痣の首輪がついた、細い首。
明らかな拘束跡だった。しかも、人の手による。
それは誰かの手によって、丁寧にファンデーションで隠されており、大野は女の香りをさせながら、屈託のない表情で眠っていた。
【本当に美しいものは、見る人に喜びや感動を与えるだけでなく、悲哀や焦燥を感じさせる】
傷跡というものは、ときにそれを悲哀に彩るアクセサリーになる。
不謹慎だけど、悲痛な首輪をつけた大野は、危うく魅力的で、学生時代の自分なら「消えないうちに描きたい」と言うだろうと思った。
それを、胸を痛めつける同情とおなじくらいの強さで、思ったのだ。
不謹慎だ。
だけどこれも職業柄、仕方のないことなのかもしれない。
こういう思考の人間は 狂っていると思われがちだが、ある種の業界には結構多い。
でもこんなこと、学校で(ましてや翔の前で)言うと一瞬で信頼を失いそうなので、やめておく。
大野なら分かってくれるかもしれない。でも当の本人だから、皮肉である。
その傷がどうやってついたのか、二宮には心当たりがあるようだった。
だけど言いたくない様子だったので、聞くのをやめた。
教師としては、無理にでも聞きだしたほうが良かったのかもしれない。
「いや、いいよな」
「何が?」
「なんでも。まぁ人によっちゃ、逃げてると思うだろうな」
「は?どういうこと?」
「俺はクソみたいな教師だなってこと」
「…何言ってんだよ」
「でもいいんだよ、コレで」
あのファンデーションは、優しい感じがした。
優しく、強い何かを感じた。
俺たちが首を突っ込むことを、優しく跳ねのける、凛とした香り。
直感だけど、知らないふりをしてやったほうが、いいのではと思う。
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時