ピアニッシモ4 【O/N】[ARS]

your face ページ12

「なんつー顔して見てんだよ」

呆れたような、でも優しい声に顔を上げると、松本先生が机に凭れていた。

細身の黒いパンツに、グレーの、ゆるりとした上品な生地のトップスを合わせている。
ひとつひとつを見ると高そうで近寄りがたいのに、松本先生が着るとなぜかラフに見えた。

似合っているということだ。着こなしている。


「ただの友達を見る目じゃねえよ、ソレ(笑)」


眉の片方を持ち上げてそう言うと、先生は「飲む？」と言って自販機で買ってきた冷たいカフェオレを渡してくれた。

「ありがとうございます…」

「いいえー」

先生は自販機の中でいちばん苦いコーヒーのプルタブを開けた。
カコ、と子気味のいい音がして、ちょっと荒々しく缶に口をつける。


なんていうか…


「なに？なんかついてる？俺の顔に」


ひとつひとつの動作がキマりすぎていてちょっと怖い。

そうやって机に凭れてコーヒーを飲んでいたら、CMのワンシーンみたいだ。そこらの女優や俳優よりもかっこいいかもしれない。

ついじっと見つめすぎてしまった。


「いや、スミマセン」

「ふうん？……カズって」


ナチュラルにカズと呼んでくる。
俺はあまり人にペースを乱されるほうではないが、松本先生と居たらドギマギしてしまいそうだ。


「大野の友達っていうから、もっとボケっとしてるのかと思ったけど」


先生は、机から腰を浮かして、寝ている智の横にしゃがむ。
ふ…と優しい笑みをもって寝顔を見つめたあと、智の右手に絡んでいる筆をそっと離して、そばにあったバケツに入れた。


「意外とフツウなんだな」


智を隔てて向かい側で、いたずらっぽく微笑んだのが、教師というより兄貴のようで

なんだか拍子抜けしてしまった。松本先生は、くるくると表情が変わる。


「それ…けなしてます？」

「褒めてるんだよ(笑)意外と礼儀正しいってこと」

「はあ…」

「あーやだねー、言葉ってムズカシイよねえ」


…そう言いながら智を見る先生だって、"ただの生徒を見る目じゃない"。

なんというか、優しいだけじゃない顔だ。ちょっとだけ、切ない。



.



「……、…ホントに美しいものってのはさー、」



.


先生の指の背が、智の首を撫でた。ファンデーションがまた落ちる。

彼は気付いていた。隠されたその拘束跡に。


「見る人に、喜びや感動を与えるだけじゃなくて、悲哀や焦燥を感じさせる」


苦しげに眉が寄せられると、先生の顔は彫刻みたいだった。


「コレ、なんの跡？」



.

Hidden scar→←nem　nem【AquaTimez『ALONES』より一部引用】

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