すぐ近くにいる another story 11

嘘だらけの婚約者 その後 11 -side Y- ページ46

何だかミツとAの距離が近い。

よく来る常連さんとコーヒーの話をしてると
目の端にミツがAの頭を撫でてるのが見える。



……何してんだよ。



そうかと思えば
少ししてミツがAの顔を触ってるし。

Aも逃げないし笑ってる。



……笑う必要ある？



モヤモヤしてると

「マスター、彼女さん大好きなんですね」

俺の目線に気づいた常連さんがクスッと笑って言う。



「さっきからチラチラ見てて。彼と仲良さそうなの気にしてますよね」



楽しそうに笑って言われるから
図星すぎて恥ずかしい。



「ベタ惚れですねー、ちょっとの事で妬いちゃいます」

「あはは、可愛い」

「なんせ彼女鈍感だし隙だらけなんで、心配で」

「ふふふっ」



笑うその人は

「私も旦那さんにもっと素直になれば良かったなー」

なんて話すからよくよく聞くと
旦那さんに普段ワガママ言うのに
いざって時になかなか甘えられないらしい。



「あー、女性ってそうなんですかね。辛い時は頼らないんですよね、あの子も」

「あら、そうなんですか？」



言ってクスッと笑うその人は

「それは少し分かるかも。相手に甘え過ぎたら嫌われちゃうかも、って思っちゃうんですよね」

「……散々、ワガママ言ってるのにですか？」

「そうそう。急に怖くなっちゃうの。分かる分かる」

ニコニコしながらコーヒーを飲んで
今日は旦那に甘えてみようかなって帰っていったけど。



全然しっくり来ない。

普通逆じゃないか？
そもそも我慢する必要ある？



ただ、考えてみたら普段のワガママって言っても
Aは別にワガママではない。

俺が特にあぁしたいこうしたいもないから
Aがあれがいいこれがいいって言ってくれるのは正直助かる。

だから問題無いんだよな。



コーヒーセットを手入れしてAに向き直ると
いつの間にかミツは居なくてAは仏頂面。



「どうした？具合悪いか？」

それよりは不機嫌に見えるけど聞くと

「……別に」

恐ろしく低い声でAが返す。



ただ、「すみません」ってお客様から声がかかると
「はいっ」って明るく返事をしてお客様の所へ行くから調子悪いわけでも無さそう。

でも戻ってくるとまたムスッとしてるから
さすがに意味不明。



ミツに対してあんなに笑顔なのに。



「今日は帰れ。そんな顔で仕事されても困る」

言うと泣きそうになったAは

「わかった、お先に」

こちらを見ないでバックヤードに向かう。



………何なの？

嘘だらけの婚約者 その後 12→←嘘だらけの婚約者 その後 11

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す