すぐ近くにいる another story 11

嘘だらけの婚約者 その後 11 ページ45

初めての激痛な生理痛を経験した後の渉は
過保護に拍車がかかった。



空気が乾燥してちょっと咳をしただけで

「風邪か？」

って声を掛けてくるし
肩が凝って首を傾けてストレッチしてるだけで

「休憩するか？」

って聞いてくる。



分かってる。
原因はこの前の未だかつて無い生理痛な事くらい。



その度に渉に

「もう大丈夫だから」

毎回言うんだけど

「分かってるけど、念の為な」

渉から切なそうに言われたら私も何も言えない。



そして、お店や家で少しでも視界から居なくなると慌てて探すし
黙って倉庫に行くと

「ちゃんと倉庫行くって言ってから行けよ」

私の顔を見てホッとした顔をしてからものすごく文句を言う。



「そりゃ、Aがわりーよ」



私の愚痴り先は
やっぱりミツさんになる。

ミツさんは元々渉派だから私には冷たい。



「心配するじゃん。妹からも大丈夫って聞いてるけどさ。入院するほどのモノ抱えてんだから」

「………」

「これで気づいたか？よこーさんがAの事、大好きだって」

「……んー」



チラッとお得意様にコーヒーをいれてる渉の顔を盗み見る。

相手は綺麗な女性。
絶対、渉の事が好き。

そんな女性に私は優しい顔で会話しながらコーヒーをいれてて……



「タイミング悪かったな」



ミツさんが笑う。

笑い事じゃない。



考えてみたら気が気じゃない。

入院は最大で2週間って聞いてるし
その後しばらく療養って言われてる。

渉目当てのお客さんは沢山居るから
もしかしたら渉が他にいい人見つけちゃうかもしれない。



明らかにテンションが下がった私にミツさんが笑って

「あんなの愛想笑いだって。……ゴメンな？」

まるで子供をあやすみたいに頭を撫でてくるから。



「……別に拗ねてないし」

「よく言うよ、そんなに口尖らせてさー」

「尖らせてないもんっ」



ギュッ、て唇を横に広げて
ミツさんの空になったグラスに水を入れると
まだ楽しそうに笑ってる渉に背中を向けて泣きそうになるのを堪えた。



「お、サンキュ……ん？A、顔にまつ毛ついてる」

「え、どこ？」

「ココ」



手を伸ばして私のほっぺについたまつ毛を取ってくれたミツさんは

「これ捨てる時に願い事するとイイって言うよな」

「そうなの？」

「まー、ただのおまじないみたいなかもんだけど」

なんて教えてくれたから。



「『渉がもっと私を好きになりますよーに』」



呟いて捨てたら
ミツさんが優しく笑ってくれた。

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