すぐ近くにいる another story 6

シロツメクサ Ki 15 ページ38

北山さんの
家庭事情に驚いてると

「Aさんのところは？」

流れで北山さんが言う。



「…ん？」

「家族。兄弟とかいるの？」



ついに質問が来た。

今まで避けてたのに。



「……えっと」



どうしよう。

普通に答えるべきか、濁すべきか。



「あ、ごめん。言いたくないならいいよ」

北山さんは慌てて言う。



そこで気づく。



北山さんはあえて私に何も話して来なかった。
ご飯を食べる関係なだけだから。

いつもならご飯を食べてうわべだけの話をして
それで終わるのに
映画なんて感情を揺さぶるものを見たから
調子が狂って。

今まで話してこなかった家族の話とかしちゃったんだ。

しかも中々複雑な。



確かに家族が恋しくなるような映画だった。

だから私も家族に会いたくなった。



けど

「私は、ね」

喉がひっつく。



「家族、縁切ったの」



その一言に北山さんの顔が固まるのがわかった。



「切った？」

「うん」

「…自分の意思で？」

「うん」



これ以上、迷惑をかけたくないから。

これを人に話したのは小夜子ママと借金取りと
小夜子ママが紹介してくれた弁護士さんだけ。



「私、本当はどうしようもない人なの。だから、何かあったら親に迷惑かけちゃうから『疎遠になった』『もう何年も会ってない』って親が言えるようにもう会わないし連絡も取らないって言ったの」



北山さんの顔が凍る。

いつもは笑顔なのに。



「親子ってね、戸籍上の縁が切れなくて何があっても親子なんだって。だから『疎遠です』っていう事実がないと認めてもらえないんだって」



借金を抱えてしまった時に
小夜子ママと弁護士さんに相談した。
その時にアドバイスされた事だった。



親に迷惑かけたくないなら事実上の縁を切る。



だから私の家には親の連絡先もない。

私の連絡先も行先も親には告げていない。



お互い連絡の取りようがない。



私は引越したし
親にも1度引っ越してくれって頼んだ。

それが最後のワガママだから、って。



パパもママも
私が悪いわけじゃないって泣いてくれたけど。



怖かった。

例え今回借金を返せてもまた同じことを繰り返すんじゃないか、って。
また男の人に騙されるんじゃないか、って。



だから縁を切った。

大好きな家族だから、守りたくて。



北山さんには引かれる覚悟だった。



でも北山さんはじーーっと私を見て
いつもの笑顔をした後で

「すげーじゃん」

褒めてくれたからびっくりする。

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