サイボーグな彼女 12

好きすぎるから 24 ページ32

でも私は

「嫌です」

秒で答えた。



そんな私に

「容赦ないね」

クスクス涼さんは笑う。



「薬を飲み忘れた俺をAは心配しないで怒ってくれたでしょ」

「当たり前じゃないですか」

「そういうところが本当に好き」

「…はい？」



涼さんは本当に愛しそうに私を抱き締める。



変わってますね。
心配してもらう方が嬉しいんじゃないかな。



私はすぐに薬を飲まないでフラフラする涼さんが
意味が分からなかった。

薬が嫌なのは分かるけど
それで辛くなるのは自分なのに。



怒られた方がいいとか意味分からないけど
ホントに？

涼さんは私を好きかもしれないけど
私は涼さんを好きじゃないから。



「自分を大切にしない涼さんは好きじゃないです」

「うん、そうだよね」

「自分を大切にしてても私の『好き』と涼さんの『好き』は違います」



私と涼さんの『好き』は違う。

涼さんのことは人としては好きだけど
私が好きなのは宏光だから。



「うん、分かるよ」

最後にギュッて涼さんは私を抱き締めてから
そっと離れる。



「ありがとう、ちゃんと振ってくれて」



涼さんが微笑む。



あ、この顔は好きだったな。

涼さんはいつもこの顔で笑ってくれていた。



でもいま私がそれを言うのは違う。

どうリアクションしていいのか分からなくて
ただ首を振った。



「彼氏いい人？」

「はい」

「俺よりも？」

「私の中では」

「優しい？」



そう言われて少し詰まる。

優しいのかな。



「……はい」

「そっか」



また優しい顔で涼さんは笑う。



この顔が見れるのは多分最後になるだろう。



これから私に見せてくれる顔は
ただの仕事関係の顔か
ゼミの先輩と後輩の顔だけだ。



この特別な笑顔はもう見られない。



そう思ったら
宏光のことは大好きだし一番好きだけど
涼さんのことも確かに好きだったんだなって
今更思った。



「ねぇ」

「はい」

「俺の事、少しは好きでいてくれた？」



涼さんが聞いてくる。



迷ったけど

「多分」

いま私が変なこと言うのもよくないから
濁して答えたら涼さんは苦笑い。



きっとこれからは
笑顔が見れてもこの顔かな。



そして涼さんは私にポン、と頭に手を乗せる。



涼さんのこの癖も好きだったな。



「先に戻るね」

「はい」



私から手を離して遠ざかる涼さんの背中を見送る。



ごめんなさい。

本当に涼さんのことは『大切』でした。



涼さんの姿が見えなくなってから
涙が溢れた。

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