サイボーグな彼女 12

好きすぎるから 21 ki ページ29

「今日のご飯の後」

炭谷さんは言う。



「え」

「Aと2人になる時間くれない？」

ものすごく真剣な顔の炭谷さん。



さりげなくAって呼んでるし。

普段「ちゃん」付けなのに。



……嫌だって言いたい。

何を今更。



Aは俺のだ、って言いたい。

Aからもう炭谷さんと復縁はないって言われてるのだって立ち聞きだけどしちゃってるし
まだ抵抗すんの？って。



でも俺はAが好きだから
炭谷さんが好きになるのも分かるし。



困ってたらフフッて炭谷さんが笑う。



「今まで出会った子の中で一番好きなんですよ、Aが。フラれるの分かってるけど完全に諦めたいんで」



そう悲しそうに言われたらもう何も言えなくて。



「…やっぱり俺が『いい』って言うのも違うんで。Aに決めてもらって下さい」



Aが話を聞く気があるかないかだよな。

俺がいいって言ったとか言わなかったとか
Aの性格上「それを宏光が決めるの？」とか言いそう。

いいって言ってもダメって言っても結局Aは文句言いそうだよな。



「わかりました」



炭谷さんは微笑むと荷物を持って立ち上がった。



「ありがとう」

また炭谷さんは頭を下げてくるから

「…いや、俺がどうこうとかないんで」

それは違うしと思ってるんだけど。



「ううん、話聞いてくれて。やっぱりAが選んだだけあって北山さんっていい人だよね」



なんて言ってる炭谷さんは完全に最後だから強がってるのがなんとなく分かる。


いい人だよ、炭谷さんも。

別に俺に仁義切る必要ねーのにわざわざ言ってきてさ。



だけどそんなこと言いたくないから

「もし仮にA取られても奪い返しに行きますから」

ちゃんと譲る気は全くないことをを伝えると

「…わかりました」

嫌な笑い顔で返される。



喫煙所の前で別れて
Aに緩い挨拶をしがら控え室に戻ると

「おかえりなさい」

Aがしっかり仕事モードな声で返してくれて。



俺も自然に仕事スイッチが入る。



俺のために俺のメイクやヘアセットを勉強してくれて
仕事しやすいようにしてくれてる。



「時短になった方がロケもスムーズですから」



そう言われた時に『ロケ長引いたらAと炭谷さんが話す時間無くなるな』なんて思っちゃったけど。

俺のことや自分の事だけじゃなくて
周りやスタッフの事も考えるAは公私共に完璧なパートナーで。





やっぱり炭谷さんには
絶対に譲りたくない。

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