サイボーグな彼女 12

好きすぎるから 21 ページ28

「ただいまー」

宏光が帰ってくる。



「おかえりなさい」

「んー」



宏光は椅子に座って鏡越しに私を見る。

「お願いしまーす」

「はい」

衣装を汚さないようにケープを掛けると
メイクに入る。



「マジか」

途中で宏光が驚いて言う。



「何がですか？」

「ふつーに出来てんじゃん」

「…それはまぁ」



自分にするメイクの延長だし
いつもメイクさんが宏光にしてるのを見てるし。



「時短になった方がロケもスムーズですから」

早く終わる方がみんなも良いだろうし。
でも

「……」

宏光はなぜか『ロケもスムーズ』ってところで顔をピクッてさせた。



「どうかしました？」

「あ、ゴメン。顔動いた？」

「はい」

「悪ぃ」



何で動いちゃったかは教えてくれない。

変なの。
思いつつもメイクを仕上げるのに集中する。



髪に入ったところで

「マジで器用すぎねー？」

宏光がびっくりしてる。



「そうですか？」

「だってこれ初めてだろ？」

「スタイリストさんに宏光の髪質に近い髪を用意してもらって練習しました」

「…いつの間に」



あなたが薮さんと飲んでる間にね
なんて妬いてるみたいで恥ずかしくて言えない。



スタイリストなしが多いことに困ってたら
武田さんがスタイリングの練習の手配をしてくれた。

練習に立ち会ってくれた武田さんは
思った以上に出来が良くて
『他のメンバーも出来るようになったら遠いロケはAに任せたら安く済むな！』なんて上機嫌で。



でも私は他のメンバーのメイクをちゃんと見た事ないんですケド。



「今度玉森さんも練習するんです」

「タマは自分で出来るだろ」

「宏光もホントは出来るでしょ？」

「さぁどうだろーね」



フフフ、って低い声で笑う宏光の声が心地いい。



毛先を仕上げて後ろの髪も見えるように手鏡を向けて鏡越しに宏光を見る。

「あと気になるところありますか？」

「ない」

「ではお疲れ様です」

ケープを取ると宏光が笑う。



「すげー！再現度高っ！」

「練習しましたから」

「今度は違う髪型も…」

「やりません」



鏡で色んなところをチェックしながら
宏光は上機嫌。



片付けてる私の横に立つと

「ん」

首を突き出す。



「何ですか？」

「これ」

宏光は衣装の蝶ネクタイを渡してくる。



既に結ばれてて引っ掛けるだけなのに。



「自分でどうぞ」

「やって」

「嫌です」

「やって！」



異様に甘える宏光に気づけば良かったって
後から思った。

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