サイボーグな彼女 12

好きすぎるから 20-2 ki ページ27

そのまま10万円のロケの着替え前に

「タバコとトイレ行ってくる」

ネクタイやらジャケットの前に済ませておきてーし。
そうAに伝えると

「喫煙所もトイレも目の前だから大丈夫ですかね」

なんて口調が冷たいままAに返されるから
何だか俺まで怒られてる気分。



確かにどっちも目の前だから問題ねーか。

「ん、へーき」

「かしこまりました。メイクの準備してます」

猫スーツを入れる袋を用意しながらAが答える。



「猫スーツ置いとけよ、袋に入れるの俺がやるから」

「大丈夫です」



まだツンツンしたままAが言うから
無理矢理Aのほっぺをムニッと横に引っ張って

「いーの、俺にやらせろ。力仕事なんだからっ」

笑ってみせたらAがようやく目の奥が柔らかくなる。



良かった。



でも

「タレントの荷物管理は私の仕事です」

Aは俺のほっぺを両手で挟んで押す。



一瞬だけ甘い時間。



でもお互いすぐに離すと

「ん、分かった。じゃあヨロシク」

「はい」

そりゃ仕事だもんな。
俺もあまり無理を言わずにAの意見を尊重するとAも満足そう。



部屋を出てトイレ経由で喫煙所に行くと
炭谷さんが暗い顔でタバコを吸っていた。



「…あ」

「お疲れ様です」



俺に気づく炭谷さんが少し気まずそう。



「空気悪くしちゃって申し訳ないね」

「大丈夫ッス」



もう空気切り替えたんで、なんて言ってやんない。

いまとなればあの空気感は暗黙の了解なんだろう。

Aも怒ってたように見えたけど実は大して怒ってなさそう。

多分分かりにくいAの感情を
Aを怒らせることで炭谷さんはAの気持ちを測ってたんだろう。



その証拠にいま炭谷さんはあまり申し訳なさそうにしてないし
Aもすぐ機嫌直ってたし。



「北山さんにお願いがあるんですけど」



タバコの火を消しながら炭谷さんが俺を見る。

「…何ですか？」

嫌な予感しかしねーけど。



「最後にチャンスくれない？」

「は？」

「Aと最後に話したくて。でもこれでキッパリ諦めるから」



ほらやっぱり。
わりー話じゃねーか。



「諦めるための最後の話ってことですか？」

「…そりゃワンチャン逆転出来ればいいけど無理でしょ」



諦めるために話すとか意味わかるようなわかんないよーな。



でも炭谷さんが嘘をついてるようには見えなくて

「俺に許可取るのは違うと思いますけど」

なんて強がって言うことしか出来なかった。

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