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「おじゃまします。」
『ホントおじゃまだよ。』
ミュージシャンの凌さんの家は数々の楽器や、センスのいいインテリアなどが並ぶ、男1人にしては洒落た部屋。
「彼女さんとか居ないんですか?オシャレだけど女っ気無い部屋ですね。」
『うるせぇ。お前は家だけじゃなく私情にもズケズケ入ってくんのかよ。』
言葉はなかなかキツいが、顔は笑っている。
その優しい笑顔、素敵な笑顔。
私より大人なのに、私より澄み切ってて、汚い私と大違い。
『テキトーに座ってろ。』
「はい。」
目の前にあったソファに腰を下ろした。
まだ全然知らない、しかも男性の部屋に上がり込むなんて、自分も危機感が無い。
『コーヒー飲める?』
「...甘ければ」
『いっちょまえに夜遊びするくせに、まだまだクソガキじゃねぇかよ』
「それとこれとは関係ないじゃないですか」
コレなら飲めるだろうと目の前に出されたホットココア。
何の変哲もないのに、それはとても甘く、温かく、あまりにも美味しすぎた。
「美味しい...」
『俺のココアは特別だから、お湯入れるだけじゃねぇんだよ。』
「何が入ってるんですか??」
『企業秘密の秘伝のタレ。』
「...え、あ、はい。」
『焼き鳥屋じゃあるまいし、んなわけねぇだろ。』
「なんかすいません、冗談も通じなくて。」
『職質にもちゃんと対応して、音楽も中々なイイ子ちゃんだと思ってたけど、実際はただのガキじゃねぇか。』
完全に馬鹿にされている。
微かにオレンジを感じる温かいココアが私に眠気を誘ってきた。
「眠くなってきた。なんか薬とか入れました?」
『は?馬鹿じゃねぇの。ちょうどいい。俺は今から寝るっつっただろ。ベッド貸してやるからお前も寝ろ。』
「一緒に寝るって事ですか?」
『マジで調子乗んなよ』
鼻で笑いながら弱めにペシっと私の額を払う凌さん。
私をベッドに促して、彼はソファに丸まった。
まだ会って2回目、全然馴染みは無いのに落ち着く匂いに包まれて、特に寝不足でもないのに簡単に入眠した。
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作者名:なちゅ | 作成日時:2020年4月9日 14時