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『歌、いいね。なんて曲?』


不審者に声をかけたられた。
怖い。普通に怖い。どうしよう。
恐怖で声も出なければ、足も動かない。


『あ...ごめん。ビックリしたよな。別に取って食おうって訳じゃねぇよ。』



「...いや、......」


『怖がらせてごめん。いい声だったから。』



レザーのジャケットを纏う男性。
優しい声でごめんねと言いながらフードを脱いだ。
ちょっとイカつい雰囲気で怖さは増幅するが、顔は優しく、ちょっとイケメン。


『俺も音楽やってるもんだからつい聞いちまった。いい声だった。』



「...ありがとうございます」



『あ、やっと喋った。』


ケラケラと笑う彼は隣のベンチに座って、徐にポケットから取り出した煙草に火をつけた。



「あの、こんな所で何してるんですか?」


『それはお互い様でしょうよ。』


「すいません...。」


『まぁ、散歩。暇だったから。』



何となく交わした会話で何故か恐怖は無くなっていた。
きっとこの人は悪い人じゃない。確信は無いのに、本能的にそう思った。


『さっきの、なんて曲??』


「曲名は、まだ無くて。」



『え、自作?すげーじゃん。』


「まぁ。はい。ありがとうございます。」


『お姉さん、ミュージシャンの卵?』


「いえ、ただの趣味です」


『えー、勿体ねぇ。もっと聴きたいのに。』


「そんな。滅相もない。」



初対面の急に話しかけてきた男性、しかも夜の23時に。襲われるかもしれない。殺されるかもしれない。危機感を忘れて随分と交流してしまった。

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作者名:なちゅ | 作成日時:2020年4月9日 14時

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