くろねこアベル【米津玄師】 (ページ1)

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にゃぁ

か細い声が僅かに耳を掠める。
いつもの様にイヤホンをしていれば気付かなかっただろう。
小さなダンボールが無造作に置かれている。

にゃぁにゃあ

その中から声が聞こえる。
興味半分で中を覗くと案の定そこには子猫が入っていた。
黒猫。
宝石の様な青い瞳でこちらを見つめている。
それは、今にも泣き出しそうな灰色の雲の遥か上を見透かすような青さだった。

｢どうしたチビ、迷子か？｣

答えないまま黒猫は伸ばした手に擦り寄る。
ペット可の物件だったかどうか一瞬悩み掛けたが今朝散歩に出かけて行ったご婦人を思い出しダンボールごと抱えて部屋に帰る。
綺麗だとも汚いとも言えない部屋を少しばかり整頓し直してからローテーブルにダンボールを置く。

｢どうすれば…｣

連れ帰ったものの、今更動物の知識などほとんど持ち合わせていないことを思い出しスマホを開く。
ふわりと抱き上げ膝に乗せると喉を鳴らす様な人見知りしない無防備な子猫を撫でながら、しばらくの時間を浪費した。