見ないうちにと二番星 ページ10
「私の疑問に全部答えるまで」
アクアは溜息を吐いた。頑張れよ。
「二人とも、まだ役者やってるんだよね」
期待したような目で此方を見てくる。そんなに私達に続けて欲しかったのか。私達に才能なんかないのに。
「いや、もうやってない」
『私もこれからはルビーのグループのマネ志望だから』
「えっ・・・そ、そうなんだ」
「そういう訳だから」
そう言って歩き出そうとするアクアと、帰ろうとする私を、ちょっと話そうよ、と有馬先輩は引き止めた。
話すことなんかないでしょうに。
「ねぇ、これからカラオケとか行かない?」
「行かねぇよ」
『何もしないでしょカラオケで』
「えっ、じゃあ・・・私のうちとか・・・?」
『「距離の詰め方ヤバくない?」』
恥ずかしそうに言う有馬先輩に二人一斉に突っ込む。
有馬先輩曰く、芸能人だから喫茶店で見知らぬ人間といる訳にはいかないらしい。芸能界ってやっぱり面倒だな。
その後、アクアの提案で三人で監督の家へ行くことになった。
「おお、有馬かな。見ないうちにデカくなったなぁ」
「あっ・・・いや・・・仕事はしてますよ・・・」
見ないうちに、という言葉が相当突き刺さったらしい。確かに女優としては見ないうちにってのは良くない言葉だな。
「翡翠もデカくなったな。お前は役者、やんねぇのか」
『マネージャー志望ですので』
「そうか、残念だな。まあ、ゆっくりしていけよ」
アクアが編集をしている間私と有馬先輩は、棚に並べられている映画のDVDの種類を見ていた。唐突に有馬先輩が口を開く。
「ねえ、アクア。役者やってないなら、なんで監督のとこ出入りしてるの?ホントは演技教わってるんじゃないの?」
「まぁ、一通りは仕込まれたけど、今は裏方志望で監督の助手やってる感じ」
「そうなんだ」
仕込まれていたのは知っていた。だけど、いつの間にかそういう話は聞かなくなっていた。恐らく自分には才能がないと諦めたのだろう。
・・・勿体無いな。
「でも嬉しい」
有馬先輩が映画のタイトルをなぞる。
「まだ、この業界にいたんだね」
有馬先輩の声に、少しだけアクアのキーボードを打つ手が止まった。だけど、直ぐに音が小さく鳴りだした。
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作者名:Wolf @ 元フェアリー | 作者ホームページ:http
作成日時:2024年1月21日 23時