本気の演技と二番星 ページ17
私に気付かない鏑木Pの声は止まらない。
「"有馬かな"っていう名前は一応世間に浸透してるし、事務所抜けてフリーになって、ギャラもタダ同然でネームバリュー使えるんだから、得したよ。･･･まぁ、演技にうるさいのだけ面倒だけどな」
鼻で軽く笑いながら言うPに苛立ちがふつふつと湧き上がってくる。
頑張るだけじゃダメだし、仕事は貰えない。でも、それでも実力が認められた訳じゃなく、"使い勝手がいい"っていう理由で使われるのはどうなんだ。
「このドラマはあくまで宣材。演技力なんて求められてないのに。そこだけは分かってないみたいだけど」
あぁ、イライラする。
だから芸能界は嫌いだ。
イライラを振り払いながら現場に戻った。私の心境を写すように、雨は更に強くなっていく。
撮影が始まる。
カチンコの音が強く響いて、カメラが回り始める。それと同時に、顔を伏せた。
さっきの鏑木Pの言葉を聞いてから、まともに有馬先輩が見れない。実力が認められてここにいる訳じゃない。雑に据えられて、大事にしている演技をうるさい、と一蹴されて。
この現場は嫌いだ。
そう思った時、鳴嶋メルトの酷い演技を破るように水溜まりを踏む音が聞こえた。
位置は、全部水溜まりを避けるように作られてる。それはみんな知ってる。だったら誰が。
ゆっくりと顔を上げると、アクアが水溜まりを踏んで、歩いていた。
それっぽい雰囲気を出して、歩いている。
「この女はお前が思ってるような人間じゃない。お前みたいなチャラついた男とは･･･」
リハの時よりも感じが出ていて、少し息を飲む。
アクアが鳴嶋メルトの耳元で何かを言った。その瞬間、鳴嶋メルトが声を荒らげてアクアに掴みかかる。
「聞こえなかったか？そんな女守る価値ないって言ったんだ！」
目を見開く。アクアに意識が持っていかれる。まるで、アイみたいな。
監督も撮影を止めようとしない。いい作品作りがしたいのはきっと監督も同じだったのだろう。誰も、止めない。
その後、有馬先輩が本気の演技を出して、最高の作品で、最高の仕上がりでドラマの撮影は終わった。
殴られて腫れているアクアの頬に濡れタオルを当てる。
『馬鹿じゃないの、わざわざ本気で殴られに行くとか･･･』
「別にいいだろ。口内から出血したわけでもないんだ」
『･･･まぁ、うん』
してたらしてたでちょっと問題になるよ。そういうシーンだったってことで片付けられはするけど･･･まぁドラマだし。
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作者名：Wolf @ 元フェアリー | 作者ホームページ：http
作成日時：2024年1月21日 23時
