思い入れと二番星 ページ16
「というわけで、挨拶は大事な仕事。ほら」
何かに気付いた有馬先輩が、私とアクアの背中を押した。よろけながら数歩前に出る。そこには、今回のドラマのP、鏑木さんがいた。
頭を下げて、挨拶をする。
「初めまして。苺プロ所属のアクアと申します」
『同じく苺プロ所属の翡翠です。本日はアクアをよろしくお願いします』
「あぁ、よろしくね」
鏑木さんは片手を軽く挙げると去っていった。とりあえずはこれでいいかな･･･
有馬先輩が隣に来て説明してくれる。
「今の人が、この現場の責任者。あの人の意見が監督やDを通して現場に伝わる。モデル事務所との繋がりが強い人で、今回のキャスティングはほとんど彼の仕事。
兎に角顔面至上主義の人でね。アクアを使って貰えたのもその辺よ」
『顔面至上主義･･･』
人には色々いるんだな･･･演技力より顔優先ってことか。兎に角色んな人を出して売り出していきたいのは分からないでもないけど、それであの出来栄えだとしたら見てくれる人も見てくれなくなると思うけど。
演出助手の人が、リハ始めます、と声を張って周りに伝えた。
アクアと有馬先輩を見送ってから画角に入らない所へ移動する。
やっぱり何度観ても大根だな･･･有馬先輩は演技力を抑えてる。満足した演技なんかできてない。ストレスとか溜まらないのか。
主演の鳴嶋メルトの頬に雨水が落ちてきたことにより、リハは一旦止められた。
『･･･どうにか、本気の演技させてやれないかな』
有馬先輩に特別思い入れがあるわけでもないけど、有馬先輩は本気でやりたい側だ。久々に仕事貰えたんだろうけど、その仕打ちがこれってのはな。
再開を待つ間に雑用をお願いされたので、一旦外に出た。備品を取り出し、戻ろうとした時鏑木さんと監督の声がして、なんとなく足を止める。
「撮影の再開まだ？メルト、この後雑誌の撮影入ってるんだけど」
「もうすぐです。キャスト陣は有馬さんが宥めてくれてるので」
「･･･かなちゃんね。使い勝手楽でいいよね」
･･･は、
鏑木Pの言葉に思わず声が出そうになる。
「誰にでもいい感じに尻尾振ってくれるから、雑に据えとくには丁度いい」
備品を持つ手に力が入る。
誰にでも裏があることは知ってる。芸能界で人に肩入れし過ぎるのも駄目だって事だって、重々承知してる。だけど、頑張ってる有馬先輩のことをそんなふうに言うのは違うんじゃないのか。
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作者名：Wolf @ 元フェアリー | 作者ホームページ：http
作成日時：2024年1月21日 23時
