黒歴史と二番星 ページ11
「お代わりいるかい?」
夕方になり、監督の家で夕飯を食べさせて貰えることになった。監督の母親が茶碗としゃもじを手に問いかけてくる。
『大丈夫です』
「私も大丈夫です。糖質抜いてるんで」
「食わなきゃ大きくならんよ」
そう言いながらももうよそってしまっている白ご飯を、あんた食べな、と監督に渡した。監督がええっ、と嫌そうな声を出す。というか監督って子供部屋おじさんだったんだな。
「でもショックだな」
「ん?」
有馬先輩の声に監督が耳を向けた。
「監督、親元で寄生虫してたんだ」
『辛辣・・・』
「お前、相変わらず大人に対する敬意がねぇガキだな」
監督の嫌味に、有馬先輩はあははっと笑う。
「でもいいな。うちは両親が田舎に引っ込んでね。私一人で寮暮らしだから、ご飯もいつもウーバー頼りだし」
「ほぉ、じゃあ金かかるだろ」
「あははっ、大丈夫!貯金だけは、子役時代の稼ぎで引く程あるから!」
「クソ憎たらしいな」
『自虐は時に自分の心を抉るよ、先輩』
というか、自虐ネタは良くないよ。自己肯定感下げるから。
有馬先輩は調味料に手を伸ばしながら、自分の話題から話を逸らす。
「ねぇ、監督。アクアの演技やってる映像とかないの?」
「あぁ、あるにはあるけど」
「見せんな。あれは気の迷いで黒歴史。自分に才能があると勘違いして、酷い目見た作品だ」
『そこまで言うなら見てみたい』
「話聞いてたか?黒歴史だって言っただろ」
本気で嫌そうな顔をするアクアの顔をニヤニヤしながら見る。まぁ、私達が凄いと言われたのは身体と精神が噛み合っていない状態でのことだったから、今となってはあの演技、あんまり意味を成さないからな。
監督は、見たいならアクアを口説いて演技をさせろ、と言った。
有馬先輩は薄らと笑みを浮かべてアクアに話を切り出す。
「今ね、私がヒロインやってる作品があるんだけど、まだ役者決まってない役あるんだ。偉い人に掛け合ってみようか?」
「やらん」
「ええっ!」
『それだけじゃアクアは動かないよ、先輩。もっとアクアの気持ちを揺さぶる様な甘〜い罠がないと』
有馬先輩が悔しそうな顔をすると、監督がポケットからスマホを取り出して作品名を聞いた。
「今日は甘口で、っていう、少女漫画が原作のドラマ」
『嗚呼・・・読んだことある。ドロドロ感が少なくてあまり好きな部類じゃなかった』
「アンタ中々に性格悪いわよね・・・」
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作者名:Wolf @ 元フェアリー | 作者ホームページ:http
作成日時:2024年1月21日 23時