5、茶漬けが食べたい ページ5
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彼女が華やいだ声で歌う。
その唇から零れるのは異国の言葉。
街行く人々は皆、その歌詞の意味も理解しないまま七竈Aという少女に釘付けになる。高く澄んだソプラノの声に残酷なまでに美しいそのかんばせに。
歌い終わると大人達が彼女の足元にお金を置いていく。Aちゃんがそれをすべて拾い上げ、一礼すると少し後ろでその様子を眺めていた僕の元へ走ってきた。
「これで何食べますか、中島先輩」
「お茶漬け」
「云うと思っていました」
あの日以降、僕とAちゃんはこうして共に旅をしていた。Aちゃんが歌を歌ってお金を貰い、それで食物を買う。女の子の世話になるなんて情けないと思いつつも、僕も一応……野宿するときに誰にも襲われないよう一睡もしないでAちゃんを守ったり、少しは役に立っているつもりでいる。……本当に些細なことだけれども。
「Aちゃんと出逢えて良かった」
「何を改まって仰っているのですか、中島先輩」
「いや……だってさ、Aちゃんがいなければ今頃飢え死にしてたかもしれないし」
可笑しなことを、とAちゃんはクスリと笑った。その笑みを見る度に、頬に熱が集まっていくのを感じる。悟られまいと「さっきの歌、なんて歌?」と話題を変えた。
「マザーグースですよ。さぁ、早く行きましょう」
手を引かれ、真っ直ぐと歩き出す。
彼女と見る夕日は一人で見るよりも、ずっと、美しく感じた。鶴見川の辺りを歩いていると、唐突にAちゃんの足が止まった。
「……あれは、」
Aちゃんの視線の先を辿ると、川に人の足が浮かんでいるのが見えた。Aちゃんと僕は顔を見合わせる。
「良いですか、先輩。私たちは何も見なかった。良いですね?」
「……うん」
僕らはまた無言になり、何事もなかったように歩く。でも、矢張りあの浮いてる足が忘れられない。というかあんなものを見てすぐに忘れられる人なんているのだろうか?
「や、矢っ張り……行って来るよ」
Aちゃんから手を離し、僕は全速力で川に飛び込んだ。
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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
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