12、その少女、魅惑につき ページ12
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従順な飼い犬のように地に伏せる虎。
虎は甘い声で鳴き、上目遣いでAを見つめている。
太宰には目の前で繰り広げられている光景が信じられなかった。あの凶暴な虎が、少女に懐いているのだから。しかし、これで合点がいった。七竈Aの異能は異能を ”魅了”する能力なのだと。これは中々に厄介だと太宰は胸の中で舌を巻く。
「……あ、あの、太宰先輩。
……な、中島先輩は元に戻らないのでしょうか……」
Aは困ったように眉を下げ、虎を見た。
太宰は背後からゆっくりと虎に近づき、その毛に触れる。同時に、虎は中島敦の姿に戻った。
「良かったぁ……」
虎が敦の姿に戻ったことで緊張が解けたのかAは力なく地面に座り込む。
「……そういえば君、何故ヨコハマに?」
「……上京、したのです。地元を出たくて」
Aは肩を竦め、苦い笑みを零す。
ああ可愛そうにと太宰は目の前の少女に心から同情した。ずっと地元にいれば彼女は異能力という存在を知らないで平和に生きていけたのだろうし、こんなことに巻き込まれることもなかっただろう。
しかし、ヨコハマに来てしまった以上、太宰と出逢ってしまった以上、帰らせることは出来ない。
「……あの、太宰先輩?」
「あぁ、ごめんね。考え事さ。
でもあの母親にしてこの子あり、っていったところかな。顔が全く似ていないから、もしかしたら人違いかも、なんて思ったけれど矢張り君はちゃんとあの母親の娘のようだ」
「……母の事を、ご存知で?」
母親の話題に触れた瞬間、Aの身に纏っていた雰囲気が大きく変わった。太宰は愉快そうに「旧い知り合いでね」と笑う。Aが真意を問おうとした時、慌ただしい足音と怒声が聞こえてきた。
「ああ……遅かったね。虎は捕まえたよ」
入ってきたのは、国木田だった。
気を失っている敦を見て「その小僧がか」と凡てを察したように云った。
「うん。虎の能力者だ。
変身してる間の記憶がなかったんだね」
「全く……次から事前に説明しろ。肝が冷えたぞ」
国木田は頭を掻くと胸ポケットからメモを取り出した。その紙には `十五番街の西倉庫に虎が出る。逃げられぬよう周囲を固めろ´ と簡潔に記されていた。
「おかげで非番の奴らまで駆り出す始末だ」
皆に酒でも奢れ、と入口を振り向いたのと同時にぞろぞろと人が入ってきた。
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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
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