Distance makes the heart grow fonder

♯36 ページ37

鼻歌を歌いながら自宅のリビングで絵筆を走らせる俺
太輔は海外にお友達や知り合い、仕事で行き来してるのもあり、日本人の平均男性と比べ、かなり仕草がスマートだ
もしこんなことをやれば【キザ】と思われそうなことも太輔が行動すると【当たり前】に受け入れれるから不思議

仕事で海外へ行くとしばらく会えない代わりにいつも素敵な花束が届く
太輔から貰ったものはずっと大切にしたいけど、生花には限界がある
だからせめてもと花束をスケッチして残すことにした
写真を撮れば簡単なのかもしれないけど、貰った嬉しさを噛み締めながら絵筆を走らせることで、更に幸せな気持ちが溢れる

それに仕事にもいい勉強になるし、今日もせっせとスケッチをする


「あら、だいぶ出来上がってきてるわね」
「あぁ、今回のは少し時間かかったけどね」

背後から見ていた母が隣に並び
「素敵な人みたいね」
「……っ」
さらりと花束の送り主のことを聞かれ、うっかり返事をしそうになる
でもこんだけ頻繁に花束を贈ってくれる人と何も無いという方がおかしい

「うん、素敵な人だよ」
「それなのに最近出掛けないわね」
「忙しい人だからさ」

それでも太輔は前より少し時間に余裕ができるようになっていた

俺と話をした次の日、彼は本当に部下達と話をしたらしい
各自の裁量で仕事するということに友輔さんは反対したものの、他の社員は乗り気でいくつかは完全に任せることが出来たのだそうだ

任されたことで部下達はやる気を見せ、前よりも活発に意見を出したり、工夫を考えたりするようになり、上手くいってるらしい

勿論太輔も相談されれば意見を出すし、フォローはしてるけど、丸ごと抱えてた時よりは随分楽になったみたい
【友輔はまだ渋い顔をしてるけどね】と苦笑してたが、太輔が行けないパーティーや会合には、藤ヶ谷家代表として参加するようになったのだから大きな進歩だ

時間に余裕が生まれたとしても元々ものすごく忙しい人だったから今でも会えるのは月の半分もない感じだけど、会えない時はメールや電話をしてるからそれはそれで、嬉しい気持ちが深くなる

太輔のことを考えてたらメールが届いた
『明後日宏光の所に帰るよ。月曜の朝まで僕に宏光の時間をくれるかな？』
思わず顔が綻んでしまう

”日本に帰るよ”ではなく”俺の元に帰る”という言い方が太輔らしい
明後日は金曜日、週末をまるまる一緒に過ごせる
『勿論、楽しみに待ってます』
いそいそとメールを返した

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