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「すみません与謝野女医、世話をかけさせました」
「そう思うなら、もっと大事にしてやったらどうだい、国木田」


与謝野女医は俺を一瞥して、タクシーからAを引っ張り出すのを手伝えと目の動きで言われる。

酔ったAを引き取れを電話があったのは数分前のこと。なるほど与謝野女医の判断は正しくて、Aは泥酔している。
軽いAを抱えあげて、与謝野女医に再度謝れば、ひらひらと手を振られただけだった。


「……運ぶか」


誰に聞かせるでもない言葉は、空気に溶けて消えた。



Aと同じ匂いがする部屋の寝台に、Aが目覚めないようにそっと下ろす。
下ろして、手を離そうとして、おもむろにAにぎゅ、と俺の首を抱えるように腕を回されて、息を呑む。


「A」
「……なんで」


掠れたような、泣いているような、彼女の声が庇護欲を煽る。
彼女の腕が、弱々しく俺を抱き寄せる。抵抗できないのは、それは、だって、……俺は。


「なんで、別れる、なんて言うの。
……国木田くん、別れたかったの?」


彼女の震える声に、目を見開く。

それは違う。俺が別れたいとかどうしたいとかではなくて、Aが俺といてはきっと幸せではないだろうから。

だから俺は。


「別れたかったけど言えなくて、喧嘩したのをいい機会だって、だから、別れたの?
わ、私が、」


彼女の声が震え、腕を回された首が解放される。
視界に映した彼女が泣いていて、息を呑む。そこでようやく、自身の間違いに気付いた。


「別れるべきだなんて、く、国木田くんに決められたくない」


彼女の泣いた瞳に睨まれて、くらりと目眩がした気がする。
ひゅ、と喉の奥で音がした。


「くに、国木田くんが、別れたいって、言うなら、私、」


尚も言い募る彼女を、俺は思わず抱き締めた。

……そうか、早とちりか。
自身の思考の短絡さと言うべきか複雑さと言うべきか、とにかく自身に腹が立つ。
俺といては彼女が幸せになれないとか、別れるべきだとか、それを決めるというのは、そうだな、それは傲慢だ。


「……すまない」
「なんで、別れる、とか、言っちゃうの」


顔を少し離したAは、じとりと俺を睨む。


「それは……その、俺なんかといては、Aはきっと不満も多いだろうしと思って」
「捏造ですーっ」


Aはむぅ、と口を尖らせて、あからさまに拗ねて見せる。が、その頭をくしゃりと撫でれば、彼女はなんとも言えない顔をして、しかしすぐにへにゃりと笑った。

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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
- あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月25日 6時

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