▼.愛しのモラトリアム ページ38
(『▼.繋ぐ環』の続き)
「……ちょっと」
「うん?」
私は戸惑いながらも太宰に声をかける。
太宰は、私の左手をとって、細い指先でくるくると私の薬指に赤い紐を巻き付けていた。指を圧迫しない、しかし抜け落ちない程度の綺麗な蝶結びが、あっという間に出来上がる。
思わず眉を潜め、太宰を見上げる。
「何、これ?」
「私の所有印」
にこりと笑い、太宰は私の薬指を撫で、指を絡めた。
「あの首飾りじゃAは不満らしいからね」
「そんなこと……」
「あるでしょう?」
太宰は絡めた手をそのまま口元に持っていき、私の手の甲に口付ける。
顔が熱くなった気がして、思わず目を逸らし、口早に告げる。
「そっ、そもそも、前のあれは、太宰が他のひとに声をかけていたから、」
「……ああ、そういうこと」
太宰は、まるで“はじめて知った”とでも言いたげな顔をする。
……何でもお見通しのくせに。
そして、満足そうに笑う。
「Aは、私が他の女性のものになるのが嫌なんでしょう?」
「え、ちが、」
「なんて独占欲の強い恋人だろうね」
「そんなこと!」
「おや」
私が反論しようとすると、太宰は私の耳に触れる。思わず「ひ、」と声が出て、太宰が愉しげに笑った。
「耳が真っ赤だ。
身体は素直で分かりやすいね」
「だからっ、違うって……!」
「ふふ」
太宰はぎゅ、と私を抱き寄せる。
耳元に吐息がかかってくすぐったい。
「独占欲が強くてあまのじゃくな恋人とは、なんて可愛いんだろうね!」
そう言う太宰の声は心なしか少し嬉しそうだ。私は抱き締められたまま、何も言い返せない。
ふと、太宰が耳元に唇を寄せて囁く。
「ね、知っているかい?
耳への口付けは、誘惑を意味するらしいのだけれど……」
声と共に耳に太宰の唇が触れる。
「ね、耳が弱いAは誘惑されたいの?」
弱点だらけなところも好きなんだけどね、なんて、そんな言葉で嬉しくなる自分が憎らしい。
2020/2/16 硝子屋
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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫 - あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月25日 6時