- ページ30
「太宰くんが居たら出来るんじゃない?」
「そりゃあ勿論」
太宰くんは、額を離して悪戯っ子みたいに笑う。
「ずっと遠く遠く、この世界の最果てまで逃げて、ずっと一緒にいるかい?」
太宰くんは少し寂しそうに笑う。この願いが叶わないことを、彼は知っている。
太宰くんはわたしをぎゅ、と抱き締めた。意外と力強い抱擁に、思わず息が詰まる。
「……A」
「うん」
「愛は人を強くすると思うかい?」
「……思うよ」
「なら言おう」
腕を解き、太宰くんは跪く。わたしは思わず立ち上がり、それを止めようとすると、太宰くんはふふ、と笑い声を溢してわたしの左手をとった。
「A、君が好きだ。
私は君を失いたくない。……大切だと思うからこそ、心中も嫌だ」
「……あなたの為なら死んでもいいのに?」
「私が望まないならそれは私の為では無いさ」
太宰くんは、答えは? と小さく首をかしげて見せる。でもその目は全て答えを知っているようで、逃げられない。逃げるつもりも無いけれど。
「……死なないって約束するなら」
「えっ……それは承諾しにくいなぁ」
太宰くんは、嬉しそうに笑う。太宰くんの冗談めかした言葉に、わたしも笑ってしまった。
熱と痛みを孕みながら腹部から溢れる血が止まらない。
ぼたたっと地面に垂れ落ちる。
無理矢理三発の弾丸を抉り取って捨てて、袖を破って傷口に当てた。
……ああでも、もう助からないだろうな。出血が多すぎる。
膝を折り、首にかけたネックレスを握る。銀の指輪を通したそれは、太宰くんがくれたものだ。
……約束を破ってしまうのだろうか。
「太宰くん……」
「お呼びかい?」
思わずこぼした名前に返事があって、そちらを見る。そこに、太宰くんが立っていた。目を見開く。
太宰くんはこの作戦には参加していない。“ミミック”の方に当たっていた筈だ。
「どうして……」
「愚問だなあ。
迎えに来たんだ、Aを」
太宰くんは笑って、持っていたのか、何処からともなく包帯を取り出して、わたしの怪我をあっという間に処置してしまう。
「まだ死なせない。
……ねえA」
太宰くんは、わたしにマフィアをやめろと言ったときと同じような顔で、声で、言う。
「マフィアをやめて」
太宰くんはわたしの手を引く。
「私と一緒に来てよ」
……それを断るなんて、あり得ない未来だ。
2019/11/17 硝子屋
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 109人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (
レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね！！福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫 - あ、全然混浴でなくても大丈夫です！無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます！少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ：
作成日時：2018年1月25日 6時
