▼.温度も糖度も控えめで。 ページ23
「あ、これかな」
ほとんど買い物も終わり、最後に、と雑貨屋に寄って、買い物に勤しむAさん。
その横に立つ僕は少々落胆していた。
折角お出掛けに誘われたから、一寸期待したのに……まさか荷物持ち、とは……。
思わずため息が出そうになって、その事にため息が出そうになる。
……好きになった人とお出掛けなんて、嬉しい筈だろ。我が儘なんて、言えない。
「敦くん」
「はい?」
ふと横を見ると、あまり笑わないAさんは、例のごとく無表情で僕に眼鏡をかける。
……あ、これ。
「伊達眼鏡……?」
「はい」
僕に眼鏡をかけたAさんはご不満な様子だが、僕にはそもそも何一つ行動が理解できない。
「何を……」
「……似合いますが、違いますね……」
よくわからないことを呟いたAさんは眼鏡を戻して、次に行きましょう、と僕の手を引いて歩き出す。
触れた手は柔らかくて小さくて、少し冷たかった。
「あ、これどうでしょう」
Aさんが手に取ったのは、毛糸で編まれた緋色の首巻き。それを、僕の首に巻き付ける。
「!!」
その距離が余りに近くなって、そりゃ前方から首の後ろにまで回す訳だからそうもなるんだけど。思わず顔が熱くなる。
「うん、よく似合いますね。
それにしましょうか」
満足げに頷くAさんは、僕の首から首巻きを取ると、代金を支払いに行こうとする。
僕は慌ててその手首を掴んだ。
「あ、あの……さっきからよくわかんないんですけど、その首巻きって」
「……敦くんのです」
Aさんは照れたように呟く。いつも無表情なAさんにしては珍しい、赤い頬。
……何、その顔。
「随分前ですが、私だけ入社祝い、まだあげてませんでしたから。
……それに、今日付き合って貰ったので、お礼です」
恥ずかしそうに、ぎゅ、とその首巻きで鼻まで隠すAさん。
無表情でミステリアス、そんな印象ばっかで、でもそんな中にある優しさを好きになった。
だからまさか、そんな人が顔を赤くして、照れるなんて、思わなかった。
思わず硬直して、まじまじとAさんを見つめる。
すると、Aさんは目を細めて優しく微笑んだ。
「これ、敦くんにきっと似合いますよ。
代金払ってきます、待っててくださいね」
そう言い残して走っていってしまう。僕は感嘆のため息と共に、ずるずるとしゃがみ込む。
「……何それ……」
____さて、赤くなった頬の言い訳を考えなくては。
2019/9/22 硝子屋
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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫 - あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月25日 6時