__ ページ29
櫻井くんと別れた日のことは、あまり覚えていない。
かれこれ10年も前の話になるから風化してしまった、というのもあるけれど。
それ以上に、恋人ではなくなったからといって
気まずくなるとか、二度と会わなくなるとか
そういったマイナスな方向に転換していかなかったのが大きいのだと思う。
だから、別れてしまった今でも
年に数回は一緒にご飯を食べたり映画を観に行ったり、お互いに新たな恋人ができれば「良かったね」と言い合える関係が続いているし
付き合い始めてから変化した'"Aちゃん"という呼び方も当時のまま。
「お疲れ様でしたー」
思っていたよりも早く仕事が終わり、
昼間のLINEを頼りに彼の待つ家へ向かう道中で
先日、数ヶ月ぶりに会った櫻井くんに結婚を報告した時のことを思い出した。
『うわ、遂にAちゃんが結婚かぁ！めでたいけど、独身仲間がまた1人減るのは寂しいわぁ…』
「ふふ。櫻井くんは結婚願望ないもんね」
『せやな、全くやわ。いつか来るんかなぁ〜結婚したくなる日』
「どうなんだろう。けどさ、櫻井くんて澄ました顔して癖強すぎるから将来のお嫁さんは苦労するだろうなぁ」
『は？言うとくけどな、Aちゃんもまあまあ癖強いからな？』
「どこがよ」
『ゲームする時に下町のヤンキーかぐらい口悪なんの、あれほんまに直した方がええで』
「いや…あのー、ほんとそれ言われてから異性の前でゲームするの一切やめてんのよ」
『ははは、そこは素直に認めんねや』
電車の窓から見る景色と同じくらいの早さで変わりゆく世界で、色褪せることなく続いている私と櫻井くんの日常。
結婚するともなれば、それは贅沢すぎるものになってしまうのかな。
いや、余計なことは考えないでおこう。
幸せなのだから、それでいいじゃない。
職場から30分もしない内に彼の家に辿り着き、インターホンを鳴らせばガチャっと音を立ててドアが開いて
どことなく元気がなさそうに見える彼と目が合った。
「おまたせ」
「おう。待ってた」
「どうしたの？」
「ああー、ちょっと話したいことがあって…」
背後に響いた閉まるドアの音がやたら重たく感じたのはきっと、きっと気のせい。
あれから２時間くらい経っただろうか。
耳をつんざくような勢いで残酷な現実が山ほど降りかかってきたというのに
「…そっか」と冷静に受け入れている自分がこわい。
青天の霹靂は、何度だってやってくる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 286人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
musubi.(プロフ) - ユキさん» 貴重なご意見ありがとうございます！作者としましては櫻井さんもまた中々に捗りがちなので、移転先でもちょこちょこ作品を投稿したいと考えてます^_^ (2021年9月10日 20時) (
レス) id: 2c2c22a77b (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - こんにちは。どのお話も素敵で大好きですが、櫻井さんのお話が本人のイメージにぴったりでした。更新楽しみにしています。 (2021年9月9日 20時) (レス) id: 03f475eb75 (このIDを非表示/違反報告)
musubi.(プロフ) - na__175さん» まさか感想をいただけるとは…！この度はコメントいただきありがとうございます！今後も、リアルでキュンとする作品をお届けできればと思っております^_^ (2021年9月5日 22時) (レス) id: 2c2c22a77b (このIDを非表示/違反報告)
na__175(プロフ) - 野田さんの作品、セリフの感じが本人ぽくてキュンときました、、、、また楽しみにしています！ (2021年9月5日 20時) (レス) id: 24730842e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：musubi. | 作成日時：2021年1月12日 23時
