欲しい愛と、知らない恋 ２

５４ 北山side ページ5

.



「玉お前おっせーよ」


「ごめんごめん」


「これ今日行って打ち合わせしてくんね？
玉ちゃんじゃなきゃ嫌！ってあのお姉さんうるさくてさ」


「うん、おっけ〜。
あ、でも今日車ないや」


「え？じゃあ今日何で来たの？」


「電車。
来る時にAと会って、一緒に電車で来た」








駅からここまで一人だったから辛かった〜、って
ぐでーんと椅子に大きく座り込んだその姿を見下ろした。




Aと一緒に来た…？

昨日といい今日といい
Aに懐きすぎじゃねぇか。









「随分Aと仲良くなってんだな？」


「なんかさ、Aって彩月姉ちゃんに似てるよね」


「……は？」


「顔とかっていうよりも、雰囲気？
だから俺でも仲良くなれたのかも」


「……似てねぇだろ。」


「そっ？」








ふんふ〜ん、てご機嫌そうに椅子をクルクルしてから
じっ、と様子を伺うように俺を見上げた。








.









──ひろみつ！









俺の名前を呼ぶ懐かしいその声が頭の中に蘇ってきて
それを誤魔化すように
丸めた資料でポカっと玉の頭を軽く叩いた。








「いって！」


「ほら、余計なこと言ってないではやく行け。
仕事しろっ」


「へいへい〜」






お姉さんに媚び売ってきまーす、って
俺の車のキーを手に社長室を後にした。







.









「……っとにあいつは余計なことばっかり…、」







今日の仕事をまとめながら
一人残された部屋で呟いた。




Aは彩月とは違う。

俺に従順で、簡単に離れてったりしない。









.









しまい込んでた記憶を呼び出されたせいか
なんだか気分が落ちて
無性にAに会いたくなった。

あの柔らかい髪を撫でて
あの俺にだけ見せるふにゃっとした笑顔を見て
無防備に体を預けるAを抱きしめたい。





.

５５→←５３

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す