010 ただの女の子 ページ10
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魔法をかけてもらって、ルンルンでこっちの世界にやって来たのに。あの日の砂浜に彼はいなくて、もちろん他に頼れる人もいなくて。波打ち際を歩いても誰も通らないし、すっかり日も落ちて心細くなって、砂浜の端っこで座り込んでいた。
それから数十分。俯くわたしに声をかけてくれたのは、あの日の彼だった。
彼は自分の上着を脱いで、わたしの肩にそっと掛けてくれた。なんて優しいんだろう。そもそも、見ず知らずのわたしの話をこんなに親身になって聞いてくれる。心配してくれる。
お名前はなんて言うのかしら。歳はおいくつ?恋人はいるの?
あの日も、今日も、わたしを助けてくれた素敵なあなたに、聞きたいことは山ほどあったけど。
ぐっと堪えて、初めましてって顔をした。つもり。
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大貴「とりあえず、これとこれ。俺のだから嫌かもしれないけど、今日だけ我慢してね。」
貸してくれた洋服に、生まれて初めて身を包む。
少しだぼっとした上下のスウェット。彼の匂いがして、なんだかドキドキする。
「合ってる?」
大貴「ん?」
「着方、これで合ってる?」
いやいや、着方って……と楽しそうに笑う彼。
そっか、そうだよね。彼は何も知らない。わたしは、家出をして砂浜に座り込んでいた『ただの』女の子。特別でも何でもない。お嬢様でも、人魚でも。
大貴「なんかあれだね、おっきいね。服。」
「そう?」
大貴「うん。裾とかダボダボじゃん。ほら、」
「わっ、!」
裾に手を伸ばそうとした彼に、咄嗟に身を引いてしまった。だって今、触れそうだった。
そうだ。このことも話さないといけない。あなたは信じてくれる?
触れたら最後。泡となって消える運命を背負って、命懸けで、あなたに会いに来たこと。
大貴「…………ごめん、」
あまりに大きかったわたしの反応に、なんだか反省しているみたいな、そんな顔。
こんな顔させたいわけじゃないのに。これからもきっとこんな風に、彼を傷つけることになる。そう思ったら急に寂しくなった。
「………あなたに、お願いがあるの。」
ん?と首を傾げ、彼は出会った時と同じように優しく微笑んでくれた。
言ってしまおう。これから7日間、一度たりとも、あなたに触れることはできないと。
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むぎ(プロフ) - まくるさん» ありがとうございます!大変なご時世だからこそ、少しでもみなさまの息抜きになればと思っています(^ ^) この新作もキュンキュンしていただけるように頑張ります。これから色んな展開が出てきますので、最後までよろしくお願いします☆ (2020年7月4日 19時) (レス) id: 88d801cec9 (このIDを非表示/違反報告)
まくる(プロフ) - 初コメント失礼します。新しい作品ですね、おめでとうございます!いつもキュンキュンしながらむぎさんの作品を拝見させて頂いております。こんなご時世で大変かもしれませんが、自分のペースでいいので更新頑張って下さいね♪ (2020年6月28日 18時) (レス) id: 968d5c61de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2020年6月28日 15時