073 愛する人さえ救えない ページ24
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名取side
患者の元にたどり着いた時、また無線が入る。
白石「現場についた。緋山先生、下の負傷者の数教えて。」
緋山「黒が7名、赤が発見できているだけで4名。運べる1名は今から上に上げる。残り3名は瓦礫で動かせない。レスキューの救助と並行して治療中。名取と分かれて重傷者にあたってる。」
白石「わかった。」
名取「名取です。立ち入り許可が出ているギリギリまで来てます。ひとりは骨盤骨折で今からシーツラッピング始めます。あとひとりは、」
ただの現場報告なのに、声が詰まる。
名取「………崩落危険箇所にいる、妊婦の女性です。」
白石「わかった。」
名前なんて、出さなくてもいい。
名取「翔北救命センターの名取です。わかりますか?」
倒れている患者に声をかけ、意識レベルや全身状態を確認していく。タグの色、上に運び出せるか、どのくらい助かる可能性があるのか。一瞬でさまざまな情報を察知し、無線で白石先生に伝えていく。あの頃はできなかったことがひとつひとつできるようになっていったここ数年。フライトドクターとしての経験を積み、後輩もでき、少しは腕も磨いてきたつもり。
Aを何度も犠牲にしていることさえ忘れて、ひたすら走ってきた数年間。これからはちゃんと向き合って、言いたいことは言い合って、夫婦として、パパとママとして、寄り添って歩いていこうと決めたのに。
こうして現場にやってきたのに、処置をすることも、近づくことも、手を握ってあげることもできない状況。誰も悪くない?いや、実家に帰れと罵声を浴びせたのはこの俺だ。悪くないわけがない。俺のせいでAは、苦しんでいるのに。この手は、愛する人さえ救えない。
いろんな考えを巡らせながら、目の前の患者の処置にあたっていた時だった。ポタリ、とフライトスーツの腕部分についている顔写真付きの名札に、雫が落ちた。不思議に思って上を見上げると、ミシミシとひび割れた天井から、少しずつ水が漏れてきている。
名取「名取です。白石先生聞こえますか?」
その時だった。
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しゅあ(プロフ) - 初コメ失礼します!もうハッピーエンドで安心致しました。うるうるしながら最終的に号泣でお話読んでました!最後の救命メンバーからの一言には少しクスッとしてしまいました(笑)本当にこの作品作って下さりありがとうございました! (7月23日 0時) (レス) @page50 id: d9ff4faa7c (このIDを非表示/違反報告)
asumin110(プロフ) - 多分初めてコメントをすると思います!既に何回か読んでます!いつ読んでも感動しますし引き込まれます!山田先生も好きだったんじゃ…?って毎回思うのですがそこはもうそう思ってしまっていいのでしょうか(^ ^)?わら 続編書く気になりましたら楽しみにしています! (2022年5月22日 1時) (レス) @page50 id: 310d1e6e98 (このIDを非表示/違反報告)
う - 復帰するお話が見たい (2021年4月18日 2時) (レス) id: 5513b83dfa (このIDを非表示/違反報告)
知念菜々(プロフ) - 完結おめでとうございます!!続編で育休が明けて病院に復帰する話が見てみたいです! (2020年2月9日 16時) (レス) id: 70738b0893 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーか - 最後、なにがあっても幸せな形で終わる、です!誤字りました、、すいません、、 (2019年11月17日 23時) (レス) id: db28430fd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2019年1月19日 12時