063 失いかけて初めて見えるもの ページ14
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名取side
伊野尾「言いすぎ。」
腕を組んで、ナースステーション中央のテーブルにもたれ掛かりながら呆れたように言う伊野尾。さすがに居づらかったのか、岡本は患者のもとへ走っていった。
名取「……わかってる、」
伊野尾「わかってないよ。なんにもわかってない。」
いつもはヘラヘラと笑う伊野尾が、こんなに真剣な目をして俺を睨むことが新鮮で。それだけのことが、今ここで起こったんだと物語ってる。
伊野尾「抱きついてたんじゃないよ。抱きとめられてたの。」
名取「、抱きとめられてた?」
伊野尾「倒れるとこだったんだよ。寝不足と体調の悪さで。」
……寝不足と、体調不良、、
普段は明るい伊野尾の声も、今日ばかりはトーンが低い。冷たく突きつけられる言葉は、棘になって心に刺さっていく。
伊野尾「ずーっと、ずーっと心配してた。夜もおうち帰んないで、名取先生の仮眠ベッドに泊まってたの。わたしなんかが空き病室使うの悪いから、って。」
名取「、は?」
伊野尾「嘘じゃないよ。夜中に仮眠しにいった山田先生が言ってた。ずっと声殺して泣いてて、全然寝てないと思うって。」
……俺は、
伊野尾「心配でたまんなかったんだよ。夫が感染症にかかったかもしれないなんてさ、これから赤ちゃん生むって時に。怖かったと思うよ?」
名取「………、」
伊野尾「ましてや自分のミスって嘘つかれて。ほんとはナース庇ったって。しかも名取先生にべったりの。」
それは、
伊野尾「ぼろぼろになってたAちゃんに、あそこまで言わなくてもいいでしょ。ほんと、不器用にも程がある。」
めずらしく淡々と冷たく言い放った伊野尾に、返す言葉も見つからなかった。今になってようやく冷静になってきた頭。思い出すのは、Aの泣き顔ばかり。こんなやつが、一生傍にいていいものか。こんなんで、Aを幸せにできるのか。こんな父親のもとに生まれてくる小さな命は、幸せになれるのだろうか。
でもそんなこと考えたってもう遅い。既に、俺とAの人生は重なってる。
この時はまだ知らなかった。
救命という、生死に最も近い現場で働きながら、俺は「日常」を過信していて。「明日」に当たり前などないと、あの時思い知ったはずなのに。この世界には、失いかけて初めて見えるものが、多すぎる。
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しゅあ(プロフ) - 初コメ失礼します!もうハッピーエンドで安心致しました。うるうるしながら最終的に号泣でお話読んでました!最後の救命メンバーからの一言には少しクスッとしてしまいました(笑)本当にこの作品作って下さりありがとうございました! (7月23日 0時) (レス) @page50 id: d9ff4faa7c (このIDを非表示/違反報告)
asumin110(プロフ) - 多分初めてコメントをすると思います!既に何回か読んでます!いつ読んでも感動しますし引き込まれます!山田先生も好きだったんじゃ…?って毎回思うのですがそこはもうそう思ってしまっていいのでしょうか(^ ^)?わら 続編書く気になりましたら楽しみにしています! (2022年5月22日 1時) (レス) @page50 id: 310d1e6e98 (このIDを非表示/違反報告)
う - 復帰するお話が見たい (2021年4月18日 2時) (レス) id: 5513b83dfa (このIDを非表示/違反報告)
知念菜々(プロフ) - 完結おめでとうございます!!続編で育休が明けて病院に復帰する話が見てみたいです! (2020年2月9日 16時) (レス) id: 70738b0893 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーか - 最後、なにがあっても幸せな形で終わる、です!誤字りました、、すいません、、 (2019年11月17日 23時) (レス) id: db28430fd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2019年1月19日 12時