夢寐 Ⅲ (ページ26)

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光輝くんからの提案に真剣に考えてみる
26歳の自分、時期的にも今いる状況から
抜け出す最後のチャンスだと思った
一番のネックだった仕事も幸い今働いている会社は
東京にも支店があり退職覚悟で上司に話してみると
意外とすんなり異動の許可が降りた

「私、光輝くんと上京する」

光輝くんに伝えると“本当に？いいの？！”と驚きと嬉しさを隠せない声
お互いの家族にもちゃんと伝えようと2人で相談し
揃って挨拶に行くと恋人ではない私たちに“早く家族になれるといいわね”と
言ってきて私の両親も光輝くんの両親も同棲に反対はしなかった

物事がトントン拍子に進んでいることに少しの怖さはあったけど、
光輝くんに支えられながらここまでこれたことに感謝しかなかった。

光輝くんと一緒に暮らして1年が経とうとしていた
一緒に暮らしていく中で少しずつ変化していった私の気持ち

最初は弟と暮らすくらいの感覚でいたけれど、
光輝くんと過ごす日々は本当に穏やかで楽しくて
幸せにさせてくれる出来事が沢山あった

落ち込んだら元気づけてくれるし
嬉しいことがあったら一緒に喜んで

素直に感情表現をしてくれて
ストレートに気持ちを伝えてくれる
光輝くんに惹かれないわけがなかった

『一緒に暮らし始めて1年が経つね』

「そうだね」
　
二人並んで公園のベンチに座り
もうすぐ満開になりそうな桜を見上げる
ベンチに置かれた光輝くんの手にそっと自分の手を重ねると

『ん？どうした？』

触れている感覚に気づいて私の顔を見る光輝くん

「あのね…」

自分の気持ちを言うのが苦手な私を
急かすことなく待ってくれていてる

「…光輝くんすき」

微かな声でそう呟くと

『やっと言ってくれたね』

言葉を聞き取って嬉しそうな顔をする光輝くん
彼には1年以上、いや好きになってくれた時から考えると
かなりの時間待たせてしまっていた訳でようやく通じた気持ち

『ね、キスしていい？』

“ずっと我慢してたからいいでしょ？”と
返事をする前にお互いの唇が重なりあった

手を繋ぎながら初めて帰る家への道
光輝くんからの一緒に暮らそうの言葉がなかったら
今の私たちはなかっただろう。

私たちの逃避行は、時間をかけて愛の逃避行となったのだった。

『愛の逃避行』

fin