陰キャとさくまの水曜日 (ページ46)

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「なに…あれ…」

音楽がかかって6人が動き出した瞬間、私は勢いよく引き込まれていった。

周りが歓声を上げている中、私はステージの上をただ見つめるだけで声が出せない。振付も、ダンスのスキルも今までとは比べ物にならない。どこを見ても美しくて、かっこよくて、不思議で。

鳥肌が立った。
なんだこれ、凄すぎる。

Aちゃーん！って犬みたいに私に構ってくる佐久間くんや、私の事を楽しそうに煽ってくる阿部くんはいなかった。普段の感じとは全く違う。

ノリや勢いでただはしゃぐような気分でダンスをしている人のそれじゃない。この人たちは本気で踊ってる、魅せようとしている。ただものじゃない。

恐怖すら覚えるそのダンスに私は目が離せなかった。あっち側が私を抑えているかのように動けなくなる。呼吸もできてるか分かんない。

「っ……！！」

その時、横に移動しながらアクロバットを決めて着地した佐久間くんと目が合った。
一瞬だった、もしかしたら勘違いかもしれない。

その表情は口角をあげて少し目を細めるような。妖艶で、色気をたっぷり含んでいて。逃がさないとでも言うように一瞬で私を捕まえた。

身体中がドクンと波打ったような、感じたことのない衝撃。

心臓の音がやけに響いている。血が体中をドクドクと流れている感覚がはっきりと分かるくらいに。

パチパチパチパチ

大きな歓声と沢山の拍手。
いつの間にか曲が終わっていて6人が一列に並んだ。

その瞬間にひゅっと息を吸った私の音が聞こえて、気づけば軽く息が切れていた。本当に息をするのを忘れていたみたいだった。

思わず手で胸元を抑えて、俯いて呼吸を整えた。

何今の、なんなの。

もう一度ステージを見るともう6人はいなくて、ステージ横で楽しそうにハイタッチをしている姿が見える。

今私の目線の先で起こったことが理解できなかった。
ショーケースは終わりとのアナウンスが流れ、ぞろぞろと人がいなくなっていく中、私は動けずただその場で放心状態のまま佇んでいた。