君の日記と冬の海

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「お待たせしました」


前に置かれたホットコーヒー。この前は甘いものの気分だったけどカフェなら普通のコーヒーも飲まなきゃなって。

お兄さんが淹れてくれたであろうコーヒーはやっぱり何だか優しい味がした。ホッとするような。


「お仕事帰りとかですか？」

「あ、はい。 」

「一昨日とは少し雰囲気が違う気がして」


ニコッと笑った店員さん。私にコーヒーを置いても裏に戻ることはなく優しい笑顔で話しかけてきた。

スーツじゃなくてもいい職場だけどオフィスカジュアルは義務付けられている。確かに私服よりは少しかしこまった格好だ。


「この辺にお住まいなんですか？また来てくれるなんてここら辺の人じゃないと中々難しいと思うんですけど」

「数日前に引っ越してきたんです」

「へぇ！じゃあお仕事はこの辺で？」

「あー、職場はここから1時間以上かかるんですけど……私地元がここなんです。小学生の時までここに住んでたんですよ。ずっと戻って来たいと思っててようやく」


もう観光地化してるここは中々住む場所にする人はいなくて。確かにこの辺で仕事をしてない限りは珍しいんだと思う。

通勤時間を伸ばしてまでここに住むなんて私くらいだと思うな。


「え！そうなんだ！じゃあ僕より全然詳しいんですね」

「うーんどうだろう、色々変わってましたし」

「どのくらい離れられてたんですか？」

「小学3年生の時に引っ越したんで…ざっと15年以上は」

「へぇ…この町が好きなんですね。僕も大好きなんでなんか嬉しいです」


表情豊かで声も優しいお兄さんは相変わらず穏やかに笑ってそう言った。

お兄さんはここの人じゃないのかな、多分そうだ。もしそうだったとしたらきっと子供の頃に顔見知りになってるはず。小さい町だから小学校も一つしかないし人数も少ない。6つ以上離れてなければ一度は顔を見たことあるはずだ。見た感じ若いし…？



「僕、出身は全然街の方なんですけど祖父母の家がここなんです。だから長期休みとか年末年始とかによく遊びに来てて。それが本当に楽しくて、いつかここで何かやりたいなって」

「それで…カフェを？」

「最近やっと軌道に乗ってきました。笑」



そうなんだ、なるほど。

自分が生まれ育った町でも無いのにわざわざこっちにきてカフェを作ろうと思うくらいにこの町が好きなんだ。私も私だけど、このお兄さんも中々に振り切ったなぁと思った。

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