【Ｈ×H】長月のセレナーデ 2小節目【幻影旅団】 (ページ4)

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誰も、知らない。ページ4

｢ふ、服を置いていけって…｣
｢なに？助けてやったのに礼も言えないの？｣
｢え、あ、ありがとう…｣

って、こんなにいけ好かない子供だったの？
クロロって。

｢…服を全部って｣
｢全部脱げ｣
｢っな、｣

できるわけないでしょー！、という私の叫び声は、虚しく響いた。対するクロロらしき彼は、頭にハテナを浮かべながら首を傾げる。間違いない。この子、クロロだ。絶対そうよ！

でも、なぜこんなに小さく…。いや、クロロが小さくなったんじゃない。私が過去に来てしまったってこと…なの？

あの時、クロロが言っていた。
『オレがまだ幼かった頃、Aは現れた』

あれが、現実になったんだ。

｢…ねえ、聞こえてるの｣
｢聞こえてるよ…。クロロ、あなたって人はこの頃から全く変わっていないのね…、！｣

その瞬間、勢いよく、身体を壁に押し付けられていた。私の首には、クロロの小さな両手が巻き付いて。

｢っ、う…｣
｢今、何て…？｣
｢…、クロ…｣
｢どうして、オレの名前を…？｣

まだ私より背の低い彼。なのに、抵抗することができない。苦しい。まだ幼いのに、なんて力だろうか。

｢オレのことを知っているのか？｣

その時、私は初めて見たのだった。あのどこか無機質で掴めないあの彼が、初めて感情を顕にしている姿を。

迫真の表情で、彼は私を睨みつけていた。

｢…教えてくれ、オレは一体、どこの誰で、なんなんだ？｣

私は、クロロの手をぺちぺちと叩いた。…このままじゃ、彼に何も教えられないまま私は死ぬ。

クロロはそれを見て、ゆっくりと私の首から手を離した。
｢…うっ、げほっ、ゴホッ｣
むせる私に、クロロは言った。

｢…どうして、オレの名前、知ってるの｣
しゃがみこんだ私を、クロロは見下ろす。あぁ、そうか。この子は自分のことを知らないのか。

『物心つく頃には、あそこにいた。もう家族のことも覚えていない。分からなかった。自分がなぜ、そこにいるのかも。どこで生まれたのかも』

｢…あんた、オレのこと知ってるのか…｣
｢それは……｣

なんて、言えばいいのだろうか。何一つ知らない、この目の前の幼い少年に、私はなんと声をかければいい。っていうか、私だって、本当はあなたのことを全部知っているわけじゃないのに。

｢…教えてくれたら、見逃してあげるよ。服もいらない。けど、…何も答えないのなら…｣
彼はまた、私の首へと小さな手を回す。
｢今度は本当に、殺してあげるから｣