【QK】煙草と珈琲と君【ymmt】

10． ページ12

Side You


「え、あ、いいんですか…？」

「…なんで？」

「…私がファンでもまた来てくれますか…？」

「…もちろんです！」


山本さんはどこまでも純粋なのか、私が気にする理由に皆目見当つかないらしく、絵に描いたようにぽかんとしたのち、またあの笑顔を見せてくれた。それに私も安堵してわかりやすく気が抜けた。

「よかったぁ…、またお待ちしてます」

「絶対また来ます。…250円でしたっけ」

「あ、そうです」


すっかり忘れていたお会計のことを思い出し、二人して笑いながらまた業務的なやりとりを交わす。


「はい、ちょうどお預かりします。…スタンプカード、どうしますか？」


また来てくれるならぜひ、と思って確認すると。


「僕、財布の中、よくぐちゃぐちゃにしちゃうんです。だから、またみやまえさんが貯めておいてくれますか？」


山本さんは、少しだけこちらに顔を寄せて私と目を合わし、いたずらっぽく笑ってそんなことを言う。
…山本さんに私今名前呼ばれた？うそでしょ？とここでフリーズするわけにもいかず、どうにか心臓を動かす。


「わかりました、また待ってます」


私はちゃんと笑えてるだろうか。変に緩み切っていないか不安である。


「Aさん、お電話です」

「あ、ありがとう。すみません、またお待ちしています」


不意に後ろからバイトの子に声をかけられる。さっき電話した本社からの折り返しだろうか、恨めしいが出ないわけにもいかない。もう少しだけお話したかったけど、山本さんも察してくださって、会釈をしてお店を出ていった。…また来てくれるって言ったもんね、とどうにか恨めしさを殺しつつ、営業用の声で電話をとる。


「もしもし、お待たせしました、宮前です」



今日は最高であり最悪な日だった。
最高なことは間違いなく山本さんとのやり取りで、最悪なのはその直後の電話。
本社の話が伝わらないおっさんに同じことを3回は話したし、話が伝わらなかった結果私がやる仕事がさらに増やされることに。ついでにアルバイトの面接はすっぽかされたし。終わり良ければ総て良しとはよく言ったもので、悪いことで終わったのでめちゃくちゃ気分が悪い。

それでもまたバイトを見送るまでどうにか仕事をしていたけどやっぱり無理で、いつものように戸締りをして裏口に出て、そして煙草に火を点ける。
いつもより早く2本目を咥えたとき。


「…宮前さん？」


終わりが良くなるかもしれない声が聞こえた。

11．→←9．

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す