43 ページ47
めまいがする。脳みそそのものを素手でかき混ぜられてるような、変な感覚。気持ち悪い。
次々に並べられる、その言葉は。
わたしが最も恐れていたものだった。
光くんが、バレーよりわたしを選ぶことなんてないと、思い知らされる。
それなのに、昨日の光くんを思い出しては、胸の奥がギュッと痛む。
何が本当の光くんなのか、わからない。
どうしていいかわからなくて目を閉じた時に、ふと赤葦先輩の声が聞こえた気がした。
〈 「Aさんが見てきた木兎さんが全てだよ」 〉
そうだ。赤葦先輩に、もう二度も教えてもらった。
光くんが、どういう人か。
いつだって前だけを見てて、バレーが大好きで、バレーばっかりで。
でも、絶対にわたしを置いていったりなんてしない。拒絶したりなんてしない。
いつだって、わたしを、
ちゃんと見てくれてる。考えてくれてる。
優しい目で、見てくれてる。
目を閉じたまま、ゆっくりと深呼吸をひとつして気持ちを落ち着かせる。
大丈夫、もう迷わない。
わたしも、ちゃんと光くんを見る。
光くんが見てくれていたみたいに、わたしも。
「だからさ、」
『っ、』
そう、思ったからかな。
目を開けて光くんの笑顔を見た瞬間に、喉がヒュッと音を鳴らした。
ちゃんと見て、わかってしまうのも、どうかと思う。
光くんを信じて、今まで見てきた光くんを信じて、そうしたら、見えてきたもう一つの光くん。
「俺、Aには、幸せになってほしいって思った」
『……光、くんは?』
「…俺は、バレーやるよ。ずっと、強くなる」
ねぇ光くん。
何でそんなに優しい目をしてるの?
何でそんなに寂しそうに笑うの?
キラキラ、大好きな眩しいほどの笑顔が歪んで見えて、ギュッと胸の奥の辺りが掴まれたように痛む。
「俺は、今よりもずっと強くなるからさ」
息が詰まる。
光くんから目を離せない。
その優しい目。
その寂しそうな笑顔。
その答えが、わかった気がした。
合わさったその目から、感じてしまった。
苦しいほどの、切ないほどの愛情。
今すぐ叫びだしそうなほどの、恋情。
ずっとほしかった、ずっと知りたかった。
光くんの感情がやっと手に入ったのに。
「だからAは、幸せになって」
もう一度そう言った光くんは、光くんの幸せの中に、わたしはいないとでも言うように。
もう、わたしの目を見なかった。
211人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さな(プロフ) - ごんすけさん» 嬉しすぎますありがとうございます!励みになります✨ (2022年12月18日 19時) (レス) @page25 id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
ごんすけ(プロフ) - 大好きですありがとうございます(語彙力の消失) (2022年12月18日 16時) (レス) @page23 id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - りるるさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!今後も楽しんでいただけたら嬉しいです🧡 (2022年12月18日 15時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
りるる(プロフ) - 好きです‼︎💕 (2022年12月15日 16時) (レス) @page2 id: 6abbd94f19 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さな | 作成日時:2022年11月30日 21時